●東洋医学的感情論
【感情論】
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人間のもつ感情は、いったいどのようにして
生まれ、私たちの心を支配するのか。
それを考えているうち、私は「反感情」という
言葉を考えついた。
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●感情の行動命令と抑制命令
自律神経には、交感神経と副交感神経がある(注※)。
行動の行動を司るのが、行動命令。
行動の抑制を司るのが、抑制命令。
この両者がバランスよく機能したとき、行動はスムーズな動きとなって現れる。
行動命令が強すぎれば、(あるいは抑制命令が弱すぎれば)、行動は、興奮性をもつ。
反対に抑制命令が強すぎれば、(あるいは行動命令が弱すぎれば)、行動は、鈍くなる。
(理屈の上では、行動命令と抑制命令の両方が、同じように強くなったり、弱くなったりすることもある。
kろえは蛇足だが、ニンニクの中には、興奮性をもつ物質と、鎮静性をもつ物質の両方が含まれているという。
いつだったか、どこかの科学者が話してくれたのを記憶している。)
ともかくも私たちの何気ない行動も、実はその裏で、交感神経と副交感神経の絶妙なバランスの上で成り立っているということになる。
つまり腕の上げ下げするときも、交感神経は「上げろ」と命令し、副交感神経は「上げるな」と命令する。
それがうまく調和しているとき、なめらかな行動となって、それは現れる。
その調和が崩れたとき、行動はなめらかさを失ったり、反対に、鈍くなったりする。
同じように、感情も、興奮命令と抑制命令によって支配されていると、考えられる。
たとえば「怒り」。
怒りを覚えたとき、脳の中では、同時に2つの命令がくだされる。
「怒れ」という命令。
「怒るな」という命令。
「怒れ」という命令が強く、「怒るな」という命令が弱くなったとき、「怒り」という感情となって、外に現れる。
一方、いくら「怒り」を感ずるような場面でも、「怒るな」という抑制命令が強く働けば、その人の感情が、外に現れることはない。
理屈で考えれば、つぎの4つのパターンに分類できる。
(1)(怒れ)という命令と(怒るな)という命令が、ともに強いケース。
(2)(怒れ)という命令が強く、(怒るな)という命令が弱いケース。
(3)(怒れ)という命令が弱く、(怒るな)という命令が強いケース。
(4)(怒れ)という命令と(怒るな)という命令が、ともに弱いケース。
この中で、(2)のような状態になったとき、人はそれを(怒り)という形で、表現する。
●行動命令と抑制命令
ここでいう行動命令と抑制命令は、よく知られた脳の中の反応である。
それについて、6年前(04年)に、こんな原稿を書いたことがある。
私はこの小さな事件を通して、行動命令と抑制命令が、どういうものであるかを実感することができた。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
●心のバランス感覚
駅構内のキオスクで、週刊誌とお茶を買って、レジに並んだときのこと。突然、横から二人の女子高校生が割りこんできた。
前の人との間に、ちょうど二人分くらいの空間をあけたのが、まずかった。
それでそのとき私は、その女子高校生にこう言った。「ぼくのほうが、先ですが……」と。するとその中の一人が、こう言った。「私たちのほうが、先だわよねえ」と。
私「だって、私は、あなたたちが、私のうしろで、買い物をしているのを、見ていましたが……」
女「どこを見てんのよ。私たち、ずっと前から、ここに並んでいたわよねエ~」と。
私は、そのまま引きさがった。そして改めて、その女子高校生のうしろに並んだ。
で、そのあと、私がレジでお金を払って、駅の構内を見ると、先ほどの二人の高校生が、10メートルくらい先を、どこかプリプリした様子で、急ぎ足に歩いていくところだった。
事件は、ここで終わった、が、私は、この一連の流れの中で、自分の中のおもしろい変化に気づいた。
まず、二人の女子高校生が、割りこんできたときのこと。私の中の二人の「私」が、意見を戦わせた。
「注意してやろう」という私と、「こんなこと程度で、カリカリするな。無視しろ」という私。この二人の私が、対立した。
つぎに、女子高校生が反論してきたとき、「別の女子高校生と見まちがえたのかもしれない。
だからあやまれ」とささやく私と、「いや、まちがいない。私のほうが先に並んだ」と怒っている私、。この二人の私が、対立した。
そして最後に、二人の女子高校生を見送ったとき、「ああいう気の強い女の子もいるんだな。
学校の先生もたいへんだな」と同情する私と、「ああいう女の子は、傲慢(ごうまん)な分だけ、いろいろな面で損をするだろうな」と思う私。この二人の私が対立した。
つまり、そのつど、私の中に二人の私がいて、それぞれが、反対の立場で、意見を言った。
そしてそのつど、私は、一方の「私」を選択しながら、そのときの心のあり方や、行動を決めた。
こういう現象は、私だけのものなのか。
もっとも日本人というのは、もともと精神構造が、二重になっている。よく知られた例としては、本音と建て前がある。心の奥底にある部分と、外面上の体裁を、そのつど、うまく使い分ける。
私もその日本人だから、本音と建て前を、いつもうまく使い分けながら生きている。こうした精神構造は、外国の人には、ない。もし外国で、本音と建て前を使い分けたら、それだけで二重人格を疑われるかもしれない。
そこで改めて、そのときの私の心理状態を考えてみる。
私の中で、たしかに二人の「私」が対立した。しかしそれは心のバランス感覚のようなものだった。運動神経の、行動命令と、抑制命令の働きに似ている。「怒れ」という私と、「無視しろ」という私。考えようによっては、そういう二人の私が、そのつどバランスをとっていたことになる。
もし一方だけの私になってしまっていたら、激怒して、その女子高校生を怒鳴りつけていたかもしれない。反対に、何ら考えることなく、平静に、その場をやりすごしていたかもしれない。
もちろんそんなくだらないことで、喧嘩しても、始まらない。しかし心のどこかには、正義感もあって、それが顔を出した。それに相手は、高校生という子どもである。私の職業がら、無視できる相手でもなかった。それでどうしても、黙って無視することもできなかった。
こうした状態を、「迷い」という。そしてその状態はというと、二人の自分が、たがいに対立している状態をいう。だからこうした現象は、私だけの、私特有のものではないと思う。
もともと脳も、神経細胞でできている。運動に、交感神経(行動命令)と副交感神経(抑制命令)があるように、精神の活動にも、それに似た働きがあっても、おかしくない。
そして人間は、その二つの命令の中で、バランスをとりながら、そのつどそのときの心の状態を決めていく。そのとき、その二つの命令を、やや上の視点から、客観的に判断する感覚を、私は、「心のバランス感覚」と呼んでいる。つまりそのバランス感覚のすぐれた人を、常識豊かな人といい、そうでない人を、そうでないという。
キオスクから離れて、プラットフォームに立ったとき、私はそんなことを考えていた。
(040224)(はやし浩司 家庭教育 育児 育児評論 教育評論 幼児教育 子育て はやし浩司 心のバランス感覚 心のバランス)
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
●反感情
東洋医学では、さらに一歩話を進めて、感情には、「相生性」と「相克性」があると教える。
(詳しくは、はやし浩司著『目で見る漢方診断』を参考にしてほしい。)
たとえば(怒り)と(思い)、(思い)は(恐れ)、(恐れ)は(喜び)、(喜び)は(悲しみ)、(悲しみ)は(怒り)と、相克性があると説く(素問・陰陽応象大論)。
わかりやすく言うと、たとえば「怒りがはげしいときは、肝の機能が傷害される。
そして怒りがはなはだしいときは、悲しみを与えてやると、怒りが収まる」。
同じように「あまりにも喜びがはげしいと、心の機能が傷害されるので、そんなときは恐れを与えてやると、その感情が中和される」(以上、『目で見る漢方診断』P146)。
ここでもう一度、フロイトが説いた、「サナトス」と「リビドー」という言葉を思い出してみよう。
サナトスというのは、「死への欲求」をいう。
リビドーというのは、「生(性)への欲求」をいう。
フロイトは、人間の感情にはつねに相反する2つのエネルギーが、同時に働くと教える。
「生への欲求」があれば、当然、「死への欲求」もある、と。
この理論を応用すれば、こういうことも言える。
ひとつの感情が表出するときは、その裏で、その反対の感情が、心の内側に向かう、と。
「愛している」と口に出して言うときは、「愛していない」という感情が、同時に内側に
向かう。
あるいは「愛していない」という感情が内側に向かうときは、それを打ち消すために、
「愛している」という感情が、外側に向かう。
喜怒哀楽について言えば、そして東洋医学(黄帝内経)の理論に従えば、それぞれの感情には、「反感情」があることがわかる。
(「反感情」というのは、はやし浩司の造語。)
たとえば人は深い悲しみを覚えたとき、同時にその反対側では、別の感情、つまり(怒り)が働く。
同じようにはげしい怒りを覚えたとき、同時にその反対側では、別の感情、つまり(思い)が働く。
つまりそれぞれの感情が、バランスを保っているとき、感情は安定する。
そうでなければそうでない。
この東洋医学的な考え方を、そのまま「サナトス」「リビドー」に当てはめることはできない。
しかし類似性というか、共通性はある。
さらにこうした一連の情意的反応も、交感神経、副交感神経論で、説明できる。
●感情ホルモン説
さらに最近では、感情ホルモン説が有力にねってきている。
私たちが感ずる感情は、ホルモンの支配下に置かれているという説である。
たとえば何かよいことをすると、その情報は辺縁系の扁桃核というところに送られる。
その情報を受けて、扁桃核は、モルヒネ様のホルモンを分泌する。
それが脳内を甘い陶酔感で満たす。
つまりもろもろの感情は、こうして生まれる。
さらに話が一歩進んで、最近の大脳生理学によれば、「悲しいから泣く」のではなく、「泣くから悲しくなる」というようなことを唱える学者もいる。
私たちが(悲しみ)を意識する前に、無意識の世界ですでに(悲しみ)は作られ、それが(泣く)という行為を引き起こすというものである。
それはともかくも、感情ホルモン説には、もうひとつ大きな合理性がある。
言うまでもなく、「脳内ホルモンのフィードバック(作用)」である。
脳内にある種のホルモンが分泌されると、それを中和(もしくは打ち消す)ために、同時に別のホルモンが分泌される。
こうして脳は、自分の脳内をつねにクリーンにしておこうとする。
この考え方は、そのまま「反感情」の説明にも結びつく。
(悲しい)という感情が起こると、同時に脳内では、(怒り)の感情を起こす。
こうして脳は、自分の脳を中和しようとする。
(よく悲しみが高じて、怒りをともなって爆発する人がいる。
こうした日常的な経験とも、合致する。)
●仮説のまとめ
以上は、言うなれば「仮説」ということになる。
しかしこの仮説は、日常生活において、即、有効に機能する。
言うまでもなく、心の平安を保つために、である。
(1)まず感情にも、交感神経と副交感神経という、自律神経系の機能が働く。
「怒れ」という命令と、「怒るな」という命令は、いつも同時進行的に発生する。
そのバランスの強弱によって、人は怒ったり、自分をなだめたりする。
(2)ひとつの感情が露出すると、その反対側で、別の反作用的な感情が引き起こされる。
東洋医学(黄帝内経)は、それをうまく説明する。
その反作用的な感情を、「反感情」(はやし浩司)という。
(3)こうした一連の脳内における感情反応は、脳内ホルモン説でも、うまく説明できる。
以上が、私が考えた「感情論」である。
科学的にどうこうというよりも、東洋医学的に、現象的に、うまく説明できる。
このつづきは、しばらく間を置いて、また考えてみたい。
2010年6月5日
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
(注※:参考)
(ウィキペディア百科事典より)
随意神経系である体性神経系と対照して、不随意である「自律神経系」は循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、および代謝のような不随意な機能を制御する。自律神経系はホルモンによる調節機構である内分泌系と協調しながら、種々の生理的パラメータを調節しホメオスタシスの維持に貢献している。近年では、自律神経系、内分泌系に免疫系を加え「ホメオスタシスの三角形」として扱われることもあり、古典的な生理学、神経学としての自律神経学のみならず、学際領域のひとつである神経免疫学、精神神経免疫学における研究もなされている。
交感神経と副交感神経の二つの神経系からなり、双方がひとつの臓器を支配することも多く(二重支配)、またひとつの臓器に及ぼす両者の作用は一般に拮抗的に働く(相反支配)。交感神経系の機能は、闘争か逃走か(fight or flight)と総称されるような、身体的活動や侵害刺激,恐怖といった広義のストレスの多い状況において重要となる。以下に運動時の生体反応を例にして、交感神経系の機能を述べる。交感神経系の行動により血管が収縮し、心拍数が増加する。この結果血圧が上昇し末梢組織の還流量が増加する。このような作用の結果消化管、皮膚への血液量が減少するが、一方で骨格筋への血液供給量が増加する。これは骨格筋の運動に伴う局所因子の影響に加えて、筋血管では血管拡張に関与するβ受容体が豊富なことも一因である。気管支平滑筋は弛緩するがこれは気管径の増加をもたらし結果として、一回換気量の増加つまりガス交換効率を向上させることとなる。一方、代謝系に視点を移す。運動時には骨格筋において多量のエネルギー基質(グルコース)を消費するため血糖維持が重要である。なかでも肝臓からのグルコース放出は重要である。交感神経は肝臓でのグリコーゲン分解と脂肪組織での脂肪分解を促し血液中に必要なエネルギーを与える。交感神経は内分泌器官にも作用し副腎髄質ホルモン分泌、グルカゴン分泌を刺激しやはり末梢組織へのエネルギー供給に促進的に作用する。結果として、骨格筋を中心とした組織において豊富な酸素とグルコースが供給される一方で、皮膚や消化管へは供給が乏しくなる。このように,自律神経系は各臓器の機能を統合的に調節することで,結果として個体の内部環境を合目的にする。
(以上、ウィキペディア百科事典より)
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