●こども園のメリット・デメリット
【幼保一元化・メリット・デメリット(走り書きメモ)】
●流れ
今までの流れとしては、こうだ。
少子化が進むにつれて、園児が減り、私立幼稚園の経営がきびしくなってきた。
(2009年度、3~5歳児の定員充足率は、69%。)
このあたり(静岡県西部)でも、園児募集の解禁日は、例年11月1日と
なっていた。
また内部では、そう定められている。
が、ここ10年、その解禁日を守る私立幼稚園は、ない。
早いところでは、「夏祭り」などの名目で、7~8月頃から、園児集めの活動を
始める。
同時に、不況、それにともなう共働き夫婦がふえ、午後2時で終了する幼稚園が
敬遠されるようになった。
そこで内々には、私立幼稚園では、「預かり保育」と称して、午後5時前後まで
園児を預かるようになった。
(こうしたやり方は、すでに40年前からあった。)
「預かり保育」といっても、認可された保育ではない。
あくまでも、「内々」。
特別の費用は徴収していない。
●保育時間の延長
そこで15年ほど前(1995年ごろ、筆者の記憶による)から、保育時間の延長を、
(私立)幼稚園協会は当時の文部省に対して、たびたび申し入れを行った(記憶)。
つまり幼保一元化の問題は、このあたりから生まれたと考えてよい。
一方、保育園(正式には保育所)は、ただ単に幼児を預かる施設から脱皮し、
幼稚園教育にまさるとも劣らないカリキュラムを用意して、「教育」に積極的に
かかわるようになってきた。
20年ほど前から、文字・数を教える保育園が急増した。
毎週、ワークブックを指導する保育園や、さらに何と、かけ算の九九まで暗記させる
保育園も出てきた。
つまり幼稚園と保育園が、競合するようになった。
(2010年4月現在、保育園に入園できない待機児童は、全国で2万6000人
あまりいる。)
が、0歳児から、しかも平均して午前7時から午後7時まで預かる保育園と、
原則として午後2時で終了する幼稚園とでは、勝負にならない。
もう一度、保育所と幼稚園のちがいと、幼保一元化の問題点を、おおざっぱにまとめ
てみる。
(1)幼稚園vs保育園
幼稚園は月謝制(保育園より月謝が一般的には、高額)。
保育園は、親の所得に応じて、納入額が変わる。
幼保が一元化すれば、月謝(納入額)をどうするか。
とくに所得の少ない家庭はどうするかという問題が起きてくる。
さらに今まで月謝制を取っていた幼稚園側にも不安感は強い。
補助金の減額は、当然のことながら、収入や施設の補修費の減少につながる。
(2)経営
幼稚園の経営ボーダーラインは、150~200人と言われている(某私立
幼稚園園長談)。
それ以下の児童数になると、経営はたいへんむずかしくなる。
園児は多ければ多いほど、経営は安定する。
一方保育園の適正人数は、60~90人と言われている。
あるいは180人以上(某保育園園長談)。
(保育園のばあい、園児を見送るのは、たとえば最低でも2人の保育士と定め
られている。
ほとんどが人件費だが、それらから計算すると、上記のような数字が出てくる。)
(3)管轄(所管)
幼稚園は文科省の管轄(所管)、保育園は厚労省の管轄(所管)。
そのため社会保障制度、共済組合制度、給与体系が異なる。
(幼稚園は学校法人、保育園は社会福祉法人である。)
幼保一元化といっても、実際の運営上、これらの問題を、どう克服していくか。
またその財源は、どうするか。
国は地方裁量型の解決策を考えているが、自治体の首長の理解のあるなしで、
補助金を一般財源にどれほど組み込むかが決まる。
現在、幼稚園の補助金は、一般財源に組み込まれているが、保育園のほうは、
組み込まれていないところが多い。
全体として、幼稚園教諭(幼稚園)の給料は、比較的に、保育園の保育士より
も高い。
幼保一元化というのは、(流れ)からして、幼稚園側の経営上の問題が発端と考え
てよい。
つまり保育園側は、このあたりを、かなり心配し、不安に思っている。
(4)園児不足と待機児童の増加
原則として、専業主婦の子どもは、保育園には入園できない。
その一方で、子どもをなぜ保育園へ入れるかという質問に対して、「楽をしたい」と
答える母親は多い。
(実際には、そう願っている母親がほとんどと考えてよい。)
産休があっても、保育園へ子どもを預けたがる親も現実には、多い。
つまり母親の育児負担を軽減するために、保育園があると考えてよい。
(産休、育児休暇が定着すればするほど、皮肉なことに待機児童がふえたという
事実も指摘されている。)
また現実問題として、都会のマンションに住んでいるような家族のばあい、子ども
をできるだけ早くから保育園へ預けたがる傾向がある。
マンションの一室だけで、子どもを育てることへの不安感は強い。
(5)幼稚園と保育園の両立
そこで同じ園舎を2つに分け、一方を幼稚園、一方を保育園とする「園」が、各地
に現われた。
それを認可したのが、「認可子ども園」(正式には「認定こども園」という)
ということになる。
中身は、幼保一元化というのでなく、幼稚園と保育園を同居させたもの。
園舎の半分を幼稚園、残り半分を保育園とする、など。
しかし認可子ども園が、問題の解決策かというと、そうでもない。
たとえば給食ひとつ取りあげても、そのつど幼稚園児の分、保育園児の分と、分け
なければならない。
会計上の経理問題がたいへん複雑で、ある会計士などは、「運営は不可能」とさえ、
断言している。
わかりやすく言えば、認定子ども園は、経営が苦しくなった幼稚園を救済する目的
で生まれたと考えてよい。
(6)介護制度をまねる
そこで今、考えられているのは、必要性を「度数」で評価し、その度数で、保育料
を決めようという方法。
保育料は同じでも、利用度に応じて、保育料、補助金を調整しようというもの。
しかしこの制度は、そうでなくても煩雑な幼稚園経営、保育園経営をかえって、
圧迫する可能性がある。
(7)メリット
幼保一元化でメリットがあるとすれば、近くに幼稚園がない地域に住む人たち
くらいではないか。
近くに保育園があっても入れない人は多い。
たとえば裕福な専業主婦など。
(原則として、共働きでないと、保育園へは入れない。)
そういう人は、遠方の幼稚園へ通わねばならない。
(8)保育園側の不安
保育園側の不安感は強い。
幼保一元化によって、補助金がふえるのか、それとも減るのか。
国は地方裁量型を考えているが、そうなると首長の判断、理解度によって、
補助金の増減が決まってしまう。
当然、経営、保育士の給料にも大きく影響してくる。
●子ども園
待機児童問題を解決するために、「子ども園(こども園)」構想が生まれた。
子ども園について言えば、政府は、事業所と自治体が認めたばあい、自動的に
認定されることになる。
(現在保育園は、国による認可制で、基準はかなりきびしい。)
つまり「民間企業」の参入が可能になる。
自由競争が可能になるが、保育料は、現在より高額になると考えられる。
これについて政府は、「幼稚園と保育園を廃止しつつ、現存の幼稚園と保育園を
子ども園として再生させる」という考え方を取りつつある。
つまり幼稚園と保育園を足して2で割ったのが、「子ども園」と。
●幼稚園の不安
幼稚園側にも不安がある。
教育力の低下を心配する園長も多い。
今の今ですら、幼稚園の教師たちは、多忙で悲鳴をあげている。
子どもを預かるというのは、それ自体、重労働である。
たった1人や2人の子どもをもてあましている母親は多い。
それを20~25人もまとめてめんどうをみる。
いかにたいへんな仕事であるかは、経験したものでないとわからない。
しかも休息時間は、ほとんどない。
加えて相手が幼児のばあい、目が離せない。
気が抜けない。
預かり保育を担任している教師は、(幼稚園のばあい、平均して午後5時まで
だが)、傍で見ていても気の毒になるほど、体力と神経をすり減らしている。
そのため現実問題として、いくら園児が不足していても、問題のある子ども(たとえば
多動性児、集中力欠如型児、自閉症児)は、入園を断られることが多い。
(最近では、入園に際して、面接をする幼稚園がふえているのは、そのため。
ある園長は、「面接はそのためにする」と教えてくれた。
「教育力の低下」は、そういうところから心配されている。
つまり教師に言わせると、「教育どころではない」となる。
●子ども園(幼保一元化の結果としての子ども園)のメリット・デメリット
子ども園のメリット・デメリットには、2面性がある。
現存の幼稚園、保育園の経営者側からみた、メリット・デメリット。
子どもをもつ親側からみた、メリット・デメリット。
ここでは親側から見た、メリット・デメリットを考えてみる。
【メリット】
●育児負担の軽減
子ども園構想は、待機児童の解消策として考えられている。
つまり子ども園がニーズに応じて、ふえればふえるほど、待機児童は減る。
ここで注意しなければならないのは、幼稚園にせよ、保育園にせよ、子どものため
にあるというよりは、親、とくに母親の育児負担の軽減のためにあるということ。
母親は、子どもを子ども園に預けることにより、育児負担を軽減することができる。
またそのために現在の保育園や幼稚園があると考える。
従って、専業主婦、共働き主婦という区別の仕方は、すでに現実性を失っている。
(専業主婦だって、息抜きしたいと願っている。)
母親たちは子どもを子ども園に預けることによって、育児負担を減らすことができる。
●選択肢の多様化(=教育の活性化)
現在、とくに田舎の過疎地に住んでいるばあい、保育園へ入れたくても入れられない
ケースが目立つ。
とくに専業主婦のばあい、入園がむずかしい。
が、保育園が子ども園になれば、垣根がはずれ、自分の子どもを預けることができる。
また民間企業、あるいはNPO団体が事業所として参入することにより、より自由で
柔軟性をもった「保育システム」が可能となる。
(政府の構想では、最低限必要な基本基準さえ守れば、それ以外は自由ということらしい。)
いうなれば、温室の中で今まで無風状態だった幼稚園、保育園が、それだけ自由競争
の荒波の中に、放り込まれることになる。
(現実に、補助金だけを目当てに、従来通りの、お決まり的な教育しかしていない幼稚園
は多い。)
●女性の社会進出
その分だけ、女性が社会進出がしやすくなる。
妊娠、出産、育児を契機として、それまでのキャリアをあきらめなければならない女性は
多い。
慢性的な欲求不満状態になっている母親も多い。
そうした女性が、職場での活躍を維持できるようになる。
【デメリット】
●保育料の増額
介護制度に似た、度数制も考えられているが、最大のデメリットは、受益者負担の名の
もと、親の負担がふえることが考えられる。
(幼稚園側にしてみれば、補助金の削減につながる。
一方保育園側にしても、地方自治体の裁量によって、財源が減らされることも考えられる。)
とくに事業体が介入してくると、利潤の追求が目的となる。
受験塾どうしでするような競争が激化する心配もある。
●所得の少ない家庭
とくに所得の少ない家庭は、どうするか。
あるいはどう援助していくか。
そのための「度数制」ということになるが、介護制度をみてもわかるように、手続きが
煩雑になる。
家庭そのものが崩壊しているケースも多い。
そういう家庭の親たちを、どう指導していくか。
筆者も介護制度を利用させてもらったことがあるが、「たいへん」の一言に尽きる。
(その点、現行の幼稚園でしているような月謝制は、わかりやすい。)
●解決策
子ども園の保育料の上限を定めるという方法もある。
その一方で、政府内部では、「利用料の上乗せを容認する」(日本経済新聞社NEWS)
ということも検討されている(11ー3)。
つまるところ、お金(マネー)の問題ということになる。
親にしてみれば、できるだけ安い利用料で、質の高い教育を望む。
幼稚園から子ども園に移行したような幼稚園にしてみれば、従来の収入は確保したい。
その一方で、政府としては、財政難からできるだけ財政的負担を軽減したい。
そのはざまにあって、保育園関係者は、保育園への補助金がどう削られていくのかと、
戦々恐々としている……。
結局は受益者負担ということで、子どもをもつ親に、負担が押しつけられていくこと
になる。
幼稚園関係者の間では、こんな声も聞かれる。
「おけいこ塾に、毎月4~6万円も使っている親も多い。
おけいこ塾でするような教育を幼稚園内部ですれば、月謝をあげても問題はないのでは
ないか」と。
そういうのを「質の高い教育」と言ってよいのかどうかは、わからない。
しかし方向としては、そういう方向に進むと考えてよい。
●付記
子どもの教育は、直接的には、親がする。
それが基本である。
また育児は、親の義務ではなく、権利である。
が、そうした意識が、年々、希薄になってきている。
子育てそのものを、めんどうと考える親もふえている。
待機児童がふえていることの背景には、入園を必要としない親までが、入園を希望しているという事実もある。
それがよいことなのか、悪いことなのかという議論はさておき、(またどうしたらよいか
という議論もさておき)、そういう「現実」があるという前提の上で、この問題を考える。
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