Education in Front-Line and Essays by Hiroshi Hayashi (はやし浩司)

(Mr.) Hiroshi Hayashi, a professional writer who has written more than 30 his own books on Education, Chinese Medical science and Religion in Japan. My web-site is: http://www2.wbs.ne.jp/~hhayashi/ Please don't hesitate to visit my web-site, which is always welcome!!

Wednesday, November 03, 2010

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●シッポ

 子どものころの私を知る人たちは、みな、こう言う。
「浩司は、明るくて、朗らかな子だった」と。
しかしそう言われるたびに、私は大きな違和感を覚える。
私はだれにでもシッポを振るような子どもだった。
相手に合わせて、おじょうずを言ったり、うまく取り入ったり
した。

 が、けっして相手を信用しなかった。
いつも私の心の中には、別の目があって、その目で相手を
ながめていた。
「この人の目的は何か」
「この人は、私をどう利用しようとしているのか」
「私は、この人をどう利用したらいいのか」
「あるいは、利用価値はあるのか」と。

●4つのパターン
 
 基本的信頼関係の構築に失敗すると、ふつう、つぎの
4つのタイプの子ども(人間)になると言われている。

(1) 攻撃型(ツッパル)
(2) 服従型(親分肌の子どもに徹底的に服従する)
(3) 依存型(ベタベタと甘える)
(4) 同情型(わざと弱々しさを演じて同情を集める)

 が、何も子どもにかぎらない。
一度、こうした傾向が子ども時代(思春期前夜から思春期)に
現れると、その症状は、一生、つづく。
それがその人の、性格的ベースになる。

●不安と焦燥感

 私が基本的に、淋しがり屋なのは、基本的不信関係に起因
している。
が、それだけではない。
先にも書いたように、常に襲いくる不安と焦燥感。
この2つの間で、いまだに苦しんでいる。

 わかっていても、どうすることもできない。
「だれかを信じたい」という思いは強いが、信ずるほど、
心を開くことができない。
いつも一歩、その手前で、相手を疑ってしまう。
そして裏切られることを恐れ、裏切られる前に、相手を
裏切ってしまう。
裏切ることはないにしても、裏切られることに、強い
警戒心をいだく。

●シッポを振る

 そのため、基本的不信関係の人は、心がもろく、傷つき
やすい。
「私は私」と、デンと構えることができない。
わかりやすく言えば、ガタガタ。
「シッポを振る」というのは、そういうことをいう。

 孤独でさみしいから、人の中に入っていく。
しかし自分をさらけ出すことができない。
だから疲れる。
精神疲労を、起こしやすい。
で、家に帰ってきて、「もう、いやだ~ア」と、声をはりあげる。

 ショーペンハウエルという学者は、それを『2匹のヤマアラシ』
という言葉を使って説明した。

●2匹のヤマアラシ

 ある寒い夜のこと。
2匹のヤマアラシが、たがいによりそって、暖をとることにした。
しかし近づきすぎると、たがいの針が痛い。
離れると、寒い。
そこで2匹のヤマアラシは、一晩中、近づいたり、離れたりを
繰り返していた。

 基本的不信関係にある人の、心理状態を、たくみに説明している。
このタイプの人は、(孤独)と(精神疲労)の間を、行ったり、
来たりする。
が、それだけではない。

●孤独の世界

 「人を信じたい」と思う。
しかし信じられない。
信じられそうになると、それがこわくて、自ら逃げてしまう。
自分のほうから、ぶち壊してしまうこともある。
「本当の私を知ったら、みんな逃げていく」と。

 愛についてもそうだ。
「人を愛したい」と思う。
しかし愛せない。
愛されそうになると、それがこわくて、自ら逃げてしまう。
自分のほうから、ぶち壊してしまうこともある。
「本当の私を知ったら、みんな逃げていく」と。

 こうして自らを、ますます孤独の世界へと追いやっていく。

●基底不安

 もうひとつの特徴は、いつ果てるともなくつづく、悶々と
した不安感。
「基底不安」ともいう。

 もっともその不安感を強く覚えたのは、子どものころ。
おとなになるにつれて、原発的な不安感は消え、姿を
変えた。

 たとえば長い休暇を手にしたとする。
長いといっても、1~2週間である。
そういうとき私は、遊ぶことに対して、おかしな罪悪感を
覚える。
「遊んでいてはいけないのだ」という罪悪感である。
人は、そういう私を批評して、「貧乏性」という。

 だから私のばあい、利益があるとかないとか、
そういうことには関係なく、働いていたほうが、気が楽。
何かをしていないと、落ち着かない。

●悪夢

 もうひとつは、悪夢。
悪夢といっても、怪獣が出てくるとか、悪魔が出てくる
とかいうものではない。
何かに乗り遅れるという夢である。

 たとえばどこかの旅行地に行っている。
飛行機に乗る時刻が迫っている。
空港まで行くリムジンは、ホテルの前で待っている。
しかし部屋の中は、散らかったまま……。
急いで片付けているのだが、すでにバスはそこにいない。

 内容はさまざまだが、基本的な部分は同じ。
こうした夢を、ほとんど毎朝のように見る。

●世代連鎖

 話を戻す。 
さらに言えば、その人が基本的不信関係の人であっても、
それはその人の範囲での問題ということになる。
不幸な過去について、その人に責任があるわけではない。
しかしあくまでも、その人、個人の問題。

 それに私の世代でいうなら、みな、そうだった。
「戦争」というのは、そういうもの。
人心そのものを荒廃させる。
あの時代、まともな家庭環境で育った人のほうが、少ない。

 が、この基本的不信関係は、きわめて世代連鎖しやすい。
親から子へと伝わりやすい。
親が心を閉じていて、どうして子が、心を開ける子どもに
なるだろうか。
夫婦関係についても、同じ。
夫が心を閉じていて、どうして妻が、心を開ける妻に
なるだろうか。
友人関係や、近隣関係、さらには親類関係にしても同じ。
この問題には、そういう深刻な側面が含まれる。

●私たちの子育て

 私のばあいも、結婚はしたものの、妻にさえ、心を
開くことができなかった。
妻も、4歳くらいのときに、母親をなくしている。
ともにいびつな家庭環境で、生まれ育った。

 だから今にして思えば、私たちのした子育ては、どこか
いびつだった。
子育ての情報そのものが、脳の中に、インプットされて
いなかった。
おまけに、私たちを指導してくれる人さえ、近くにいなかった。
暗闇の中を、手探りで、子育てをしているようなものだった。

 私は(仕事の虫)となって、夢中で仕事をした。
家庭を顧みなかった。
ワイフのほうはどうかは知らないが、全体としてもみても、
平均的な母親よりは、愛情が希薄だったと思う。
3人の子どもたちは、日常的に愛情飢餓の状態に置かれた。

●母自身も犠牲者(?)

 先ほど、世代連鎖のことを書いた。
実のところ、私が基本的不信関係に陥ったのは、私の母との
関係だけ、というふうに考えるには、無理がある。

 このことは最近になって、いとこたちと話すことで知った。
当人たちは、それに気づいているかどうかは知らないが、いとこの
中には、私と同じような症状で苦しんでいる人が多い。
つまり私の母自身も、心の開けない人だった。
虚栄心が強かったのも、そのひとつということになる。

 同じように、いとこたちの中にも、心の開けない人がいる。
そういう人を知ることによって、私の母自身も、その前の
世代から、世代連鎖を経て、あのような母になったことがわかる。
こんなことがあった。

●ある知人

 あるいとこと、いっしょに食事をしたときのこと。
当時私は、入眠導入剤というのを、のんでいた。
いわゆる「眠り薬」である。
ときどき眠り損ねると、夜中の2時、3時まで、眠られない
ことがある。
それでそういう薬を、医師に処方してもらった。

 で、その話をして、ふと薬を見せると、そのいとこは、
その薬名を、さっとメモに書き写していた。
イヤ~ナ気分だった。
何かを調べられているような気分だった。

 実のところ、そのいとこも、愛想はよいが、だれにも
心を許さないタイプの男だった。
ただ私とのちがいは、私にはそれがわかったが、その
知人には、それがわからなかったということ。
もちろん「基本的不信関係」という言葉すら、知らないだろう。

●オーストラリア

 私が「心を開く」ということを知ったのは、オーストラリアへ
渡ってからのこと。
オーストラリア人というのは、総じて、心がオープン。
戦勝国として、戦後、きわめて恵まれた国で、みな生まれ育った。
当時は、世界でも1、2を争うほど、豊かな国だった。

 たとえば映画館などでも、静かに映画を観ているような客は
いない。
画面に反応して、声を張り上げたり、手を叩いたりして観ていた。
海辺へ行けば、みな、素っ裸で、泳いだ。
男も、女もない。
そういうオーストラリア人と接するうちに、私は、心を開くことが
どういうことかを知った。
そのせいか、今でも、個人的な悩みや苦しみは、相手がオーストラリア
人だと、話せる。
日本人だと、話せない。

 あるいは今でも、相手がオーストラリア人とわかったとたん、
10年来、20年来の友人のように、話しかけていくことが
できる。