*Impulisively Voilent Children
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●暴れまわる子ども(キレる子ども)
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アメリカのBLOGサイトに、こんな
相談があった。
預かっている子どもについての相談だが、
暴れまわって、困るという内容のもの。
Bulletin Board for EDSPC 753より転載。
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We have had custody of my 6 year old stepson for 9 months now, and I am truly worn out
and need help ASAP. I went to the school today to pick him up for a doctor appointment
(for his behavior & yes he is on medications for this)and upon seeing me in the hallway he
became hysterical and ran in the oposite direction screaming. The principal and I caught up
with him and he began punching, kicking, slapping, biting, and pulling several handfulls of my
hair out of my head before the principal could restrain him. When he seemed calmed a bit i
tried to calmly let him know that I was just picking him up for his doctor's appointment, at
that point he kicked me in the face and continued to scream as loud as he could, disrupting
several classrooms. The principal tried to carry him out to my vehicle, but once in he began
kicking the daylights out of my car, he then got out and threw himself on the ground
screaming. Please tell me what in the world to do and how should this be handled if it should
occur at school again. The only facts we know about his life with his real mother is that she
admitted in court to having heavily used methamphetamines daily throughout the
pregnancy. I am not a teacher, but I fell terrible that the staff at his school had to go
through this. He had an episode eight weeks ago where he did the same thing to his teacher
that he did to me, I am in fear that his abuse will only escalate. He is scheduled for a psych
evaluation in Tacoma in 2 weeks, please give me advice for the mean time, we have 5 other
well behaved children in our home, how do I keep them safe?
6歳の子どもを預かるようになって、9か月になる。私は本当に疲れた。今日も、ドクターの診
察を受けるため、学校へ子どもを迎えに行った。玄関で私を見るやいなや、子どもはヒステリッ
クになり、反対方向へ走って逃げていった。校長と2人で、追いついたものの、殴ったり、蹴っ
たり、ひっぱたいたり、髪の毛を引っぱったりした。少し落ち着いたところで、今日は、病院へ
行くだけだと話して聞かせた。そのときも、私の顔を蹴り、大声で泣き叫び、いくつかの教室の
授業を混乱させてしまった。どうしたらよいのか、どうか、教えてほしい。また学校で同じような
ことが起きたら、どうすればよいのか。8週間ほど前も同じようなことをしたとき、このままエスカ
レートしたら、どうしようかと悩んだ。彼は、タコマで、心理教育を受けることになっている。この
間、どうすればよいのか、教えてほしい。私のところには、ほかにも5人の子どもを預かってい
るが、みな、行儀がよい。
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ある教育者からの返事
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It sounds like you are dealing with an extremely difficult situation. So far the other
suggestions posted by Dina and Bear should be helpful. I have two more techniques that
may be helpful for your stepson. One technique that you might want to try is creating a
behavior contract with your stepson. First, you can figure out what behaviors you would like
to see him exhibit in school and at home. Some suggestions would be he needs to draw
when he is feeling angry or he needs to follow directions the first time that they are given.
Set a time frame for each time you or the teacher will be evaluating his behavior. Start
small to encourage his success with the technique. You might want to say, if you can do this
for 30 minutes you will receive a reward. And, keep track of whether or not he is exhibiting
this behavior every 30 minutes. You will talk to him about what kinds of rewards he is willing
to work for. If he loves to play with his toy trucks maybe you can use extra play time as a
reward or getting to watch a favorite movie. It is important to figure out what rewards
matter to him. You can find more information on using behavior contracting on this website.
Go to the main behavioradvisor.com screen and you will find the link for contracts.
たいへん困難な状況にあると思う。先にコメントを書いた、DさんやBさんの意見も、役に立つ
でしょう。で、私は、役にたつであろう2つの技術をもっている。
1つは、まず試してみるべきことは、その子どもとの、(行動契約)を結ぶこと。まず、学校や家
で、彼がどうあるべきかを、あなたがそれを具体的に頭の中で描いてみる。彼が怒っていると
きや、最初に指示に従う必要にあるとき、どうするかを決めるのもよい。それぞれのときに、時
間のワクをつくれば、先生が、子どもの行動を(客観的に)評価するだろう。もし30分以内にで
きれば、ほうびを与えるなどとする。30分ごとに、その契約が守れるかどうかを、観察する。ま
たその子どもがどのようなほうびを求めているかを、子どもと話しあう。たとえばおもちゃのトラ
ックと遊びたいとか、好きな映画を見たいというのであれば、それらをほうびとする。その子ど
もが何をしたがっているかを知ることが、重要。このサイトで、(行動契約)についてのさらなる
情報を、手に入れることができる。そちらを訪問してみたらよい。
The second technique that you might want to try is having your stepson self monitor his
own behavior. You will start out when he is calm to identify a behavior that you would like to
encourage. Be confident in his ability to master this technique. It may sound unlike you, but
give him excessive amounts of your confidence that he can master this behavior. Many
children take their cues from the adults in their lives. Once you have figured out what
behavior you will be working on, create a sheet with smily faces and frowning faces. At
designated times, ask him to circle the smiling face if he is exhibiting this behavior or the
frowning face if he is not. This will build his own motivation to exhibit appropriate behaviors.
And, celebrate when he is improving!!! I know this can be difficult to do, as some of the
improvements will seem small in relation to the problems; however, it is good for you and
him to recognize when changes are occuring.
It seems like you are really commited to helping this child and he is lucky to have such a
stable adult in his life. Good luck with this situation.
Keely
2番目の技術は、子ども自身の行動について、自己監視させること。子どもがあなたから見
て、落ち着いていて、好ましい状態にあるときから、始める。この技術をマスターするための能
力が子どもにあると、自信をもつこと。子どもが自分で自分を管理できると、あなたが、(今の
あなたには、そうではなくても)、自身をもっていることを、子どもに強く印象づける。多くの子ど
もたちは、彼らの生活において、おとなたちから、その手がかりを得る。どんな様子が望ましい
かがわかったら、(ニコニコマーク)と(しかめっつらマーク)を描いたシートを用意する。このこと
で、子どもに自覚を促す。そしてうまくいったときは、その子どもをほめたたえる。このことはむ
ずかしいことは、わかっている。この問題に関しては、進歩は、少ないだろう。しかしあなたとそ
の子どもにとって、変化が起きつつあることを気がつくためには、よい。その子どもにとって、あ
なたのような安定したおとなをもっているということは、すばらしいことだ。
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●子どもの過剰行動性について
子どもの突発的な過剰行動性、いわゆるキレる子どもについては、いろいろな分野から考察
が繰りかえされている。
大脳の微細障害説、環境ホルモン説、食生活説など。それらについて、数年前に書いた原
稿を、ここに添付する。
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【子どもがキレるとき】
●ふえるキレる子ども
2000年、全国の教育委員会から報告された校内での暴力行為は、前年度より11.4%
ふえて、34595件に達したことがわかった(文部科学省)。「対外的に問題の見られなかった
子どもが、突発的に暴力をふるうケースが目立つ」と指摘。同省・児童生徒課は、キレる子ども
への対応の必要性を強調した(中日新聞)。
暴力行為が報告された学校の割合は、小学校が全体の2・2%だったが、中学校が35・
8%、高校が47・3%にのぼった。また学校外の暴力行為は、小中高校で、計5779件だっ
た。私が住む静岡県でも、前年度より210件ふえて、1132件だった。マスコミで騒がれること
は少なくなったが、この問題は、まだ未解決のままと考えてよい。
こうしたキレる子どもの原因について、各方面からさまざまな角度から議論されている。教育
的な分野からの考察については言うまでもないが、それ以外の分野として、たとえば(1)精神
医学、(2)栄養学の分野がある。さらに最近では(3)環境ホルモンの分野からも問題が提起さ
れている。これは、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)が、子どもの脳に影響を与え、それ
が子どもがキレる原因の一つになっているという説である。以下、これらの問題点について、
考えてみる。
(1)精神医学の分野からの考察
●躁状態における錯乱状態
キレる状態は、心理学の世界では、「躁(そう)状態における精神錯乱」と位置づけられてい
る。躁うつ病を定型化したのはクレペリン(ドイツの医学者・1856~1926)だが、一般的には
躁状態とうつ状態はペアで考えられている。周期性をもって交互に、あるいはケースによって
は、重複して起こることが多いからである。それはそれとして、このキレた状態になると、子ども
は突発的に攻撃的になったり、大声でわめいたりする。(これに対して若い人の間では、ただ
単に、激怒した状態、あるいは怒りをコントロールできなくなった状態を、「キレる」と言うことが
多い。ここでは区別して考える。)私にもこんな経験がある。
●恐ろしく冷たい目
子どもたち(小3児)を並べて、順に答案に丸をつけていたときのこと。それまでF君は、まっ
たく目立たないほど、静かだった。が、あと一人でF君というそのとき、F君が突然、暴れ出し
た。突然というより、激変に近いものだった。ギャーという声を出したかと思うと、周囲にあった
机とイスを足げりにしてひっくり返した。瞬間私は彼の目を見たが、その目は恐ろしいほど冷た
く、すごんでいた……。
●心の緊張状態が原因
よく子どもの情緒が不安定になると、その不安定な状態そのものを問題にする人がいる。し
かしそれはあくまでも表面的な症状に過ぎない。情緒が不安定な子どもは、その根底に心の
緊張状態があるとみる。その緊張状態の中に不安が入りこむと、その不安を解消しようと、一
挙に緊張感が高まり、情緒が不安定になる。先のF君のばあいも、「問題が解けなかった」とい
う思いが、彼を緊張させた。そういう緊張状態のところに、「先生に何かを言われるのではない
か」という不安が入りこんで、一挙に情緒が不安定になった。言いかえると、このタイプの子ど
もは、いつも心が緊張状態にある。気を抜かない。気を許さない。周囲に気をつかうなど。表情
にだまされてはいけない。柔和でおだやかな表情をしながら、その裏で心をゆがめる子どもは
少なくない。これを心理学の世界では、「遊離」という。「遊離現象」というときもある。心(情意)
と表情がミスマッチを起こした状態をいう。一度こういう状態になると、教える側からすると、「何
を考えているかわからない子ども」といった感じになる。
その引き金となる原因はいくつかあるが、その第一に考えるのが、欲求不満である。欲求不
満が日常的に続くと、それがストレッサー(ストレスの原因)となり、心をふさぐ。その閉塞感が、
子どもの心を緊張させる。子どもの心について、こんな調査結果がある(98年・文部省調査)。
「いらいら、むしゃくしゃすることがあるか」という質問に対して、小学6年生の18.6%が、
「日常的によくある」と答え、59.8%が、「ときどきある」と答えている。その理由としては、
(1)友だちとの人間関係がうまくいかないとき……51.8%
(2)人に叱られたとき……45.7%
(3)家族関係がうまくいかないとき……35.5%
(4)授業がわからないとき……34.1%
(5)意味もなくむしゃくしゃするときがある……18.5%
また「不安を感ずることがあるか」という質問に対しては、やはり小学六年生の7.8%が、「日
常的によくある」と答え、47.7%が、「ときどきある」と答えている。その理由としては、
(1)友だちとの関係がうまくいかないとき……51.0%
(2)授業がわからないとき……47.7%
(3)時間的なゆとりがないとき……29.3%
(4)落ち着ける居場所がないとき……22.4%
(5)進路、進学について……20.4%
この調査結果から、現代の子どもたちは、およそ20人に一人が日常的に、いらいらしたり、
むしゃくしゃし、10人に一人が日常的にある種の不安を感じていることがわかる。
●子どもの欲求不満
子どもの欲求不満については、その原因となるストレスの大小はもちろんのこと、それを受け
取る子ども側の、リセプターとしての問題もある。同じストレスを与えても、それをストレスと感じ
ない子どももいれば、それに敏感に反応する子どももいる。そんなわけで、子どものストレスを
考えるときは、対個人ではどうなのかというレベルで考える必要がある。それはさておき、子ど
もは自分の欲求が満たされないと、欲求不満になる。この欲求不満に対する反応は、ふつう、
次の三つに分けて考える。
(1)攻撃・暴力タイプ
欲求不満やストレスが、日常的にたまると、子どもは攻撃的になる。心はいつも緊張状態あ
り、ささいなことでカッとなって、暴れたり叫んだりする。母親が、「ピアノのレッスンをしようね」と
話しかけただけで、包丁を投げつけた女の子(年長児)がいた。私が「今日は元気?」と声をか
けて、肩をたたいた瞬間、「このヘンタイ野郎!」と私を足げりにした女の子(小五)もいた。こう
した攻撃性は、表に出るタイプ(喧嘩する、暴力を振るう、暴言を吐く)と、裏に隠れてするタイ
プ(弱い者をいじめる、動物を虐待する)に分けて考えることができる。
(2)退行・依存タイプ
ぐずったり、赤ちゃんぽくなったりする(退行性)。あるいは誰かに依存しようとする(依存
性)。このタイプの子どもは、理由もなくグズグズしたり、甘えたりする。母親がそれを叱れば叱
るほど、症状が悪化するのが特徴で、そのため親が子どもをもてあますケースが多い。
(3)固着・執着タイプ
ある特定の「物」にこだわったりする(固着性)。あるいはささいなことを気にして、悶々と悩ん
だりする(執着性)。ある男の子(年長児)は、毛布の切れ端をいつも大切に持ち歩いていた。
最近多く見られるのが、おとなになりたがらない子どもたち。赤ちゃんがえりならぬ、幼児がえ
りを起こす。ある男の子(小五)は、幼児期に読んでいたマンガの本をボロボロになっても、ま
だ大切そうにカバンの中に入れていた。そこで私が、「これは何?」と声をかけると、その子ど
もはこう言った。「どうチェ、読んでは、ダメだというんでチョ。読んでは、ダメだというんでチョ」
と。
ものに依存するのは、心にたまった欲求不満をまぎらわすための代償行為と考えるとわかり
やすい。よく知られているのに、指しゃぶりや、爪かみ、髪いじりなどがある。別のところで指の
快感を覚えることで、自分の欲求不満を解消しようとする。
キレる子どもは、このうち、(1)攻撃・暴力タイプということになるが、しかし同時に退行性や
依存性、さらには固着性や執着性をみせることが多い。
●すなおな子ども論
補足だが、従順で、おとなしい子どもを、すなおな子どもと考えている人は多い。しかしそれ
は誤解。教育、なかんずく幼児教育の世界では、心(情意)と表情が一致している子どもを、す
なおな子どもという。うれしいときにはうれしそうな表情をする。悲しいときには悲しそうな表情
をする。しかし心と表情が遊離すると、ここに書いたようにそれがチグハグになる。ブランコを
横取りされても、ニコニコ笑ってみせたり、いやなことがあっても、黙ってそれに従ったりするな
ど。中に従順な子どもを、「よくできた子ども」と考える人もいるが、それも誤解。この時期、よく
できた子どもというのは、いない。つまり「いい子」ぶっているだけ。このタイプの子どもは大き
なストレスを心の中でため、そのためた分だけ、別のところで「心のひずみ」となって現われる。
よく知られた例として、家庭内暴力を起こす子どもがいる。このタイプの子どもは、外の世界で
は借りてきたネコのようにおとなしい。
●おだやかな生活を旨とする
キレるタイプの子どもは、不安状態の中に子どもを追いこまないように、穏やかな生活を何よ
りも大切にする。乱暴な指導になじまない。あとは情緒が不安定な子どもに準じて、(1)濃厚な
スキンシップをふやし、(2)食生活の面で、子どもの心を落ち着かせる。カルシウム、マグネシ
ウム分の多い食生活にこころがけ、リン酸食品をひかえる。リン酸は、せっかく摂取したカルシ
ウムをリン酸カルシウムとして、体外へ排出してしまう。もちろんストレスの原因(ストレッサー)
があれば、それを除去し、心の負担を軽くすることも忘れてはならない。
●子どもの感情障害
ほかに自閉症やかん黙児、さらには小児うつ病など、脳に機能的な障害をもつ子ども、さら
に近年問題になっている集中力欠如型多動性児(ADHD)は、感情のコントロールができない
ことがよく知られている。これらのタイプの子どもは、ささいなことがきっかけで、突発的に(1)
激怒する、(2)興奮、混乱状態になる、(3)暴言を吐いたり、暴力行為に及ぶ。攻撃的に外に
向って
暴力行為を及ぶタイプを、プラス型、内にこもり混乱状態になるのをマイナス型と私は分けてい
る。どちらにせよその行動は予想がつきにくく、たいていは子どもの「ギャーッ」という動物的な
叫び声でそれに気づくことが多い。こちらが「どうしたの?」と声をかけるときには、すでに手が
つけられない状態になっている。
(2)栄養学の分野からの考察
●過剰行動性のある子ども
もう20年以上も前だが、アメリカで「過剰行動性のある子ども」(ヒュー・パワーズ・小児栄養
学)が、話題になったことがある。ささいなことがきっかけで、突発的に過剰な行動に出るタイプ
の子どもである。日本では、このタイプの子どもはほとんど話題にならなかったが、中学生によ
るナイフの殺傷事件が続いたとき、その原因の一つとして、マスコミでこの過剰行動性が取り
あげられたことがある(98年)。日本でも岩手大学の大沢博名誉教授や大分大学の飯野節
夫教授らが、この分野の研究者として知られている。
●砂糖づけのH君(年中児)
私の印象に残っている男児にH君(年中児)という子どもがいた。最初、Hさん(母親)は私に
こう相談してきた。「(息子の)部屋の中がクモの巣のようです。どうしたらいいでしょうか」と。話
を聞くと、息子のH君の部屋がごちゃごちゃというより、足の踏み場もないほど散乱していて、
その様子がふつうではないというのだ。が、それだけならまだしも、それを母親が注意すると、
H君は突発的に暴れたり、泣き叫んだりするという。始終、こきざみに動き回るという多動性も
気になると母親は言った。私の教室でも突発的に、耳をつんざくような金切り声をあげ、興奮
状態になることも珍しくなかった。そして一度そういう状態になると、手がつけられなくなった。
私はその異常な興奮性から、H君は過剰行動児と判断した。
ただ申し添えるなら、教育の現場では、それが学校であろうが塾であろうが、子どもを診断し
たり、診断名をくだすことはありえない。第一に診断基準が確立していないし、治療や治療方
法を用意しないまま診断したり、診断名をくだしたりすることは許されない。仮にその子どもが
過剰行動児をわかったところで、それは教える側の内心の問題であり、親から質問されてもそ
れを口にすることは許されない。診断については、診断基準や治療方法、あるいは指導施設
が確立しているケース(たとえば自閉症児やかん黙児)では、専門のドクターを紹介することは
あっても、その段階で止める。この過剰行動児についてもそうで、内心では過剰行動児を疑っ
ても、親に向かって、「あなたの子どもは過剰行動児です」と告げることは、実際にはありえな
い。教師としてすべきことは、知っていても知らぬフリをしながら、その次の段階の「指導」を開
始することである。
●原因は食生活?
ヒュー・パワーズは、「脳内の血糖値の変動がはげしいと、神経機能が乱れ、情緒不安にな
り、ホルモン機能にも影響し、ひいては子どもの健康、学習、行動に障害があらわれる」とい
う。メカニズムは、こうだ。ゆっくりと血糖値があがる場合には、それに応じてインスリンが徐々
に分泌される。しかし一時的に多量の砂糖(特に精製された白砂糖)をとると、多量の、つまり
必要とされる量以上の量のインスリンが分泌され、結果として、子どもを低血糖児の状態にし
てしまうという(大沢)。そして(1)イライラする。機嫌がいいかと思うと、突然怒りだす、(2)無気
力、(3)疲れやすい、(4)(体が)震える、(5)頭痛など低血糖児特有の症状が出てくるという
(朝日新聞98年2・12)。これらの症状は、たとえば小児糖尿病で砂糖断ちをしている子ども
にも共通してみられる症状でもある。私も一度、ある子ども(小児糖尿病患者)を病院に見舞っ
たとき、看護婦からそういう報告を受けたことがある。
こうした突発的な行動については、次のように説明されている。つまり脳からは常に相反する
二つの命令が出ている。行動命令と抑制命令である。たとえば手でものをつかむとき、「つか
め」という行動命令と、「つかむな」という抑制命令が同時に出る。この二つの命令がバランス
よく調和して、人間はスムーズな動きをすることができる。しかし低血糖になると、このうちの抑
制命令のほうが阻害され、動きがカミソリでスパスパとものを切るような動きになる。先のH君
の場合は、こまかい作業をさせると、震えるというよりは、手が勝手に小刻みに動いてしまい、
それができなかった。また抑制命令が阻害されると、感情のコントロールもできなくなり、一度
激怒すると、際限なく怒りが増幅される。そして結果として、それがキレる状態になる。
●恐ろしいカルシウム不足
砂糖のとり過ぎは、子どもの心と体に深刻な影響を与えるが、それだけではない。砂糖をとり
過ぎると、カルシウム不足を引き起こす。
糖分の摂取が、体内のカルシウムを奪い、虫歯の原因になることはよく知られている。体内の
ブドウ糖は炭酸ガスと水に分解され、その炭酸ガスが、血液に酸性にする。その酸性化した血
液を中和しようと、骨の中のカルシウムが、溶け出るためと考えるとわかりやすい。体内のカ
ルシウムの98%は、骨に蓄積されている。そのカルシウムが不足すると、「(1)脳の発育が不
良になったり、(2)脳神経細胞の興奮性を亢進したり、(3)精神疲労をしやすくまた回復が遅く
なるなどの症状が現われる」(片瀬淡氏「カルシウムの医学」)という。わかりやすく言えば、カ
ルシウムが不足すると、知恵の発達が遅れ、興奮しやすく、また精神疲労を起こしやすいとい
うのだ。甘い食品を大量に摂取していると、このカルシウム不足を引き起こす。
●生化学者ミラー博士らの実験
精製されてない白砂糖を、日常的に多量に摂取すると、インスリンの分泌が、脳間伝達物質
であるセロトニンの分泌をうながし、それが子どもの異常行動を引き起こすという。アメリカの
生化学者のミラーは、次のように説召している。
「脳内のセロトニンという(脳間伝達)ニューロンから脳細胞に情報を伝達するという、神経中
枢に重要な役割をはたしているが、セロトニンが多すぎると、逆に毒性をもつ」(「マザーリン
グ」81年7号)と。日本でも、自閉症や子どもの暴力、無気力などさまざまな子どもによる問題
行動が、食物と関係しているという研究がなされている。ちなみに、食品に含まれている白
砂糖の量は、次のようになっている。
製品名 一個分の量 糖分の量
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヨーグルト 【森永乳業】 90ml 9・6g
伊達巻き 【紀文】 39g 11・8g
ミートボール 【石井食品】 1パック120g 9・0g
いちごジャム 【雪印食品】 大さじ30g 19・7g
オレンジエード【キリンビール】 250ml 9・2g
コカコーラ 250ml 24・1g
ショートケーキ 【市販】 一個100g 28・6g
アイス 【雪印乳業】 一個170ml 7・2g
オレンジムース 【カルピス】 38g 8・7g
プリン 【協同乳業】 一個100g 14・2g
グリコキャラメル【江崎グリコ】 4粒20g 8・1g
どら焼き 【市販】 一個70g 25g
クリームソーダ 【外食】 一杯 26g
ホットケーキ 【外食】 一個 27g
フルーツヨーグルト【協同乳業】 100g 10・9g
みかんの缶詰 【雪印食品】 118g 15・3g
お好み焼き 【永谷園食品】 一箱240g 15・0g
セルシーチョコ 【江崎グリコ】 3粒14g 5・5g
練りようかん 【市販】 一切れ56g 30・8g
チョコパフェ 【市販】 一杯 24・0g
●砂糖は白い麻薬
H君の母親はこう言った。「祖母(父親の実母)の趣味が、ジャムづくりで、毎週ビンに入った
ジャムを届けてくれます。うちでは、それを食べなければもったいないということで、パンや紅茶
など、あらゆるものにつけて食べています」と。私はH君の食生活が、かなりゆがんだものと知
り、とりあえず「砂糖断ち」をするよう進言した。が、異変はその直後から起きた。幼稚園から帰
ったH君が、冷蔵庫を足げりにしながら、「ビスケットがほしい、ビスケットがほしい」と泣き叫ん
だというのだ。母親は「麻薬患者の禁断症状のようで、恐ろしかった」と話してくれた。が、それ
から数日後。今度はH君が一転、無気力状態になってしまったという。私がH君に会ったのは、
ちょうど一週間後のことだったが、H君はまるで別人のようになっていた。ボーッとして、反応が
まるでなかった。母親はそういうH君を横目で見ながら、「もう一度、ジャムを食べさせましょう
か」と言ったが、私はそれに反対した。
●カルシウムは紳士をつくる
戦前までは、カルシウムは、精神安定剤として使われていた。こういう事実もあって、イギリス
では、「カルシウムは紳士をつくる」と言われている。子どもの落ち着きなさをどこかで感じた
ら、砂糖断ちをする一方、カルシウムやマグネシウムなど、ミネラル分の多い食生活にこころ
がける。私の経験では、幼児の場合、それだけで、しかも一週間という短期間で、ほとんどの
子どもが見違えるほど落ち着くのがわかっている。川島四郎氏(桜美林大学元教授)も、「ヒス
テリーやノイローゼ患者の場合、カルシウムを投与するだけでなおる」(「マザーリング」81年7
号)と述べている。効果がなくても、ダメもと。そうでなくても、缶ジュース一本を子どもに買い与
えて、「うちの子は小食で困ります」は、ない。体重15キロ前後の子どもに、缶ジュースを一本
与えるということは、体重60キロの人が、4本飲む量に等しい。おとなでも缶ジュースを4本は
飲めないし、飲めば飲んだで、腹の中がガボガボになってしまう。
なお問題となるのは、精製された白砂糖をいう。どうしても甘味料ということであれば、精製さ
れていない黒砂糖をすすめる。黒砂糖には、天然のミネラル分がほどよく配合されていて、こ
こでいう弊害はない。
●多動児(ADHD児)との違い
この過剰行動性のある子どもと症状が似ている子どもに。多動児と呼ばれる子どもがいる。
前もって注意しなければならないのは、多動児(集中力欠如型多動性児、ADHD児)の診断基
準は、二〇〇一年の春、厚生労働省の研究班が国立精神神経センター上林靖子氏ら委託し
て、そのひな型が作成されたばかりで、いまだこの日本では、多動児の診断基準はないという
のが正しい。つまり正確には、この日本には多動児という子どもは存在しないということにな
る。一般に多動児というときは、落ち着きなく動き回るという多動性のある子どもをいうことにな
る。そういう意味では、活発型の自閉症児なども多動児ということになるが、ここでは区別して
考える。
ちなみに厚生労働省がまとめた診断基準(親と教師向けの「子どもの行動チェックリスト」)
は、次のようになっている。
(チェック項目)
1行動が幼い
2注意が続かない
3落ち着きがない
4混乱する
5考えにふける
6衝動的
7神経質
8体がひきつる
9成績が悪い
10不器用
11一点をみつめる
たいへんまたはよくあてはまる……2点、
ややまたは時々あてはまる……1点、
当てはまらない……0点として、
男子で4~15歳児のばあい、
12点以上は障害があることを意味する「臨床域」、
9~11点が「境界域」、
8点以下なら「正常」
この診断基準で一番気になるところは、「抑え」について触れられていない点である。多動児が
多動児なのは、抑え、つまり指導による制止がきかない点である。教師による抑えがきけば、
多動児は多動児でないということになる。一方、過剰行動児は行動が突発的に過剰になるとい
うだけで、抑えがきく。その抑えがきくという点で、多動児と区別される。また活発型の自閉症
児について言えば、多動性はあくまでも随伴的な症状であって、主症状ではないという点で、こ
の多動児とは区別される。またチェック項目の中の(1)行動が幼い(退行性)は、過保護児、
溺愛児にも共通して見られる症状であり、(7)神経質は、敏感児、過敏児にも共通して見られ
る症状である。さらに(9)成績が悪い、および(10)不器用については、多動児の症状というよ
りは、それから派生する随伴症状であって、多動児の症状とするには、常識的に考えてもおか
しい。
ついでに私は私の経験から、次のような診断基準をつくってみた。
(チェック項目)
1抑えがきかない
2言動に秩序感がない
3他人に無遠慮、無頓着
4雑然とした騒々しさがある
5注意力が散漫
6行動が突発的で衝動的
7視線が定まらない
8情報の吸収性がない
9鋭いひらめきと愚鈍性の同居
10論理的な思考ができない
11思考力が弱い
このADHD児については、脳の機能障害説が有力で、そのために指導にも限界がある……
という前提で、それぞれの市町村レベルの教育委員会が対処している。たとえば静岡県のK
市では、指導補助員を配置して、ADHD児の指導に当っている。ただしこの場合でも、あくまで
も「現場教師を補助する」(K市)という名目で配置されている。
(3)環境ホルモンの分野からの考察
●シシリー宣言
1995年11月、イタリアのシシリー島のエリゼに集まった一八名の学者が、緊急宣言を
行った。これがシシリー宣言である。その内容は「衝撃的なもの」(グリーンピース・JAPAN)な
ものであった。
いわく、「これら(環境の中に日常的に存在する)化学物質による影響は、生殖系だけではな
く、行動的、および身体的異常、さらには精神にも及ぶ。これは、知的能力および社会的適応
性の低下、環境の要求に対する反応性の障害となってあらわれる可能性がある」と。
つまり環境ホルモンが、人間の行動にまで影響を与えるというのだ。が、これで驚いて
いてはいけない。シシリー宣言は、さらにこう続ける。「環境ホルモンは、脳の発達を阻害す
る。神経行動に異常を起こす。衝動的な暴力・自殺を引き起こす。奇妙な行動を引き起こす。
多動症を引き起こす。IQが低下する。人類は50年間の間に5ポイントIQが低下した。人類の
生殖能力と脳が侵されたら滅ぶしかない」と。ここでいう「社会性適応性の低下」というのは、具
体的には、「不登校やいじめ、校内暴力、非行、犯罪のことをさす」(「シシリー宣言」・グリーン
ピース・JAPAN)のだそうだ。
この事実を裏づけるかのように、マウスによる実験だが、ビスワエノールAのように、環境ホ
ルモンの中には、母親の胎盤、さらに胎児の脳関門という二重の防御を突破して、胎児の脳
に侵入するものもあるという。つまりこれらの環境ホルモンが、「脳そのものの発達を損傷す
る」(船瀬俊介氏「環境ドラッグ」より)という。
(4)教育の分野からの考察
前後が逆になったが、当然、教育の分野からも「キルる子ども」の考察がなされている。しか
しながら教育の分野では、キレる子どもの定義すらなされていない。なされないままキレる子ど
もの議論だけが先行している。ただその原因としては、(1)親の過剰期待、そしてそれに呼応
する子どもの過負担。(2)学歴社会、そしてそれに呼応する受験競争から生まれる子ども側
の過負担などが、考えられる。こうした過負担がストレッサーとなって、子どもの心を圧迫する。
ただこの段階で問題になるのが、子ども側の耐性である。最近の子どもは、飽食とぜいたくの
中
で、この耐性を急速に喪失しつつあると言える。わずかな負担だけで、それを過負担と感じ、
そしてそれに耐えることがないまま、怒りを爆発させてしまう。親の期待にせよ、学歴社会にせ
よ、それは子どもを取り巻く環境の中では、ある程度は容認されるべきものであり、こうした
環境を子どもの世界から完全に取り除くことはできない。これらを整理すると、次のようにな
る。
(1)環境の問題
(2)子どもの耐性の問題。
この二つについて、次に考える。
●環境の問題
●子どもの耐性の問題
終わりに……
以上のように、「キレる子ども」と言っても、その内容や原因はさまざまであり、その分野に応じ
て考える必要がある。またこうした考察をしてのみ、キレる子どもの問題を正面からとらえるこ
とができる。一番危険なのは、キレる子どもを、ただばくぜんと、もっと言えば感傷的にとらえ、
それを論ずることである。こうした問題のとらえ方は、問題の本質を見誤るばかりか、かえって
教育現場を混乱させることになりかねない。
(はやし浩司 キレる子ども 過剰行動性 突発的に暴れる子供 暴れる子ども)
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●依存と愛着
++++++++++++++++++
3年前に書いた原稿を改めて
読みなおしてみる。
自分のボケ度を知るには、
たいへんよい。
つまり3年前の自分と、
今の自分を、それで比較する
ことができる。原稿は、
ランダムに選んでみた。
テーマは、『依存と愛着』。
さあ、どうかな?
+++++++++++++++++++
子どもの依存と、愛着は分けて考える。中には、この2つを混同している人がいる。つまりベ
タベタと親に甘えることを、依存。全幅に親を信頼し、心を開くのを、愛着という。子どもが依存
をもつのは問題だが、愛着をもつのは、大切なこと。
今、親にさえ心を開かない、あるいは開けない子どもがふえている。簡単な診断方法として
は、抱いてみればよい。心を開いている子どもは、親に抱かれたとき、完全に力を抜いて、体
そのものをべったりと、すりよせてくる。心を開いていない子どもや、開けない子どもは、親に抱
かれたとき、体をこわばらせてしまう。抱く側の印象としては、何かしら丸太を抱いているような
感じになる。
その抱かれない子どもが、『臨床育児・保育研究会』(代表・汐見稔幸氏)の実態調査による
と、4分の1もいるという。原因はいろいろ考えられるが、報告によれば、「抱っこバンドだ」とい
う。
「全国各地の保育士が、預かった〇歳児を抱っこする際、以前はほとんど感じなかった『拒
否、抵抗する』などの違和感のある赤ちゃんが、4分の1に及ぶことが、『臨床育児・保育研究
会』(代表・汐見稔幸氏)の実態調査で判明した」(中日新聞)と。
報告によれば、抱っこした赤ちゃんの「様態」について、「手や足を先生の体に回さない」が3
3%いたのをはじめ、「拒否、抵抗する」「体を動かし、落ちつかない」などの反応が2割前後見
られ、調査した六項目の平均で25%に達したという。また保育士らの実感として、「体が固い」
「抱いてもフィットしない」などの違和感も、平均で20%の赤ちゃんから報告されたという。さら
にこうした傾向の強い赤ちゃんをもつ母親から聞き取り調査をしたところ、「育児から解放され
たい」「抱っこがつらい」「どうして泣くのか不安」などの意識が強いことがわかったという。また
抱かれない子どもを調べたところ、その母親が、この数年、流行している「抱っこバンド」を使っ
ているケースが、東京都内ではとくに目立ったという。
報告した同研究会の松永静子氏(東京中野区)は、「仕事を通じ、(抱かれない子どもが)2
~3割はいると実感してきたが、(抱かれない子どもがふえたのは)、新生児のスキンシップ不
足や、首も座らない赤ちゃんに抱っこバンドを使うことに原因があるのでは」と話している。
子どもは、生後7、8か月ころから、人見知りする時期に入る。一種の恐怖反応といわれてい
るが、この時期を通して、親への愛着を深める。が、この時期、親から子への愛着が不足する
と、以後、子どもの情緒はきわめて不安定になる。ホスピタリズムという現象を指摘する学者も
いる。いわゆる親の愛情が不足していることが原因で、独得の症状を示すことをいう。だれに
も愛想がよくなる、表情が乏しくなる、知恵の発達が遅れ気味になる、など。貧乏ゆすりなど
の、独得の症状を示すこともあるという。
一方、冒頭にも書いたように、依存は、この愛着とは区別して考える。依存性があるから、愛
着性があるということにはならない。愛着性があるから、依存性があるということにはならな
い。が、この二つは、よく混同される。そして混同したまま、「子どもが親に依存するのは、大切
なことだ」と言う人がいる。
しかし子どもが親に依存性をもつことは、好ましいことではない。依存性が強ければ強いほ
ど、自我の発達が遅れる。人格の「核」形成も遅れる。幼児性(年齢に比して、幼い感じがす
る)、退行性(目標や規則、約束が守れない)などの症状が出てくる。もともと日本人は、親子で
も、たがいの依存性がきわめて強い民族である。依存しあうことが、理想の親子と考えている
人もいる。たとえば昔から、日本では、親にベタベタ甘える子どもイコール、かわいい子イコー
ル、よい子と考える。そして独立心が旺盛で、何でも自立して行動する子どもを、かわいげのな
い「鬼ッ子」として嫌う。
こうしたどこかゆがんだ子育て観が、日本独特の子育ての柱になっている。言いかえると、よ
く「日本人は依存型民族だ」と言われるが、そういう民族性の原因は、こうした独特の子育て観
にあるとみてよい。もちろんそれがすべて悪いと言うのではない。依存型社会は、ある意味で
温もりのある社会である。「もちつもたれつの社会」であり、「互いになれあいの社会」でもあ
る。しかしそれは同時に、世界の常識ではないことも事実で、この日本を一歩外へ出ると。こう
した依存性は、まったく通用しない。それこそ生き馬の目を抜くような世界が待っている。そうい
うことも心のどこかで考えながら、日本人も自分たちの子育てを組み立てる必要があるのでは
ないか。あくまでも一つの意見にすぎないが……。
(はやし浩司 愛着 依存 抱かれない子供 抱かれない子ども ホスピタリズム 抱っこバンド
子どもの依存性 子供の依存性 はやし浩司
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【子どもの緊張感】
+++++++++++++++++
子どもに緊張感をもたせる。その緊張感
が、たとえば受験勉強などにおいて、よ
い方向に作用するという。
しかし本当にそうか? そう言いきって
よいのか?
今、あちこちで、その受験戦争が、火花
を飛ばしている。
その「緊張感」について、ここで、はっ
きりと、結論を出しておきたい。
+++++++++++++++++
●幼児に受験の自覚?
私のところへきて、1人の母親が、こう言った。「A進学教室(浜松市内)の幼児科では、『子ど
もに受験するという緊張感をもたせるために、毎日、合格しますと子どもに言わせているそうで
す』と。
5歳、6歳の子どもに、受験の自覚をもたせる? こういう例は、ほかにもある。浜松市内のX
幼稚園では、S小学校を受験する子どもたちだけを集めて、特訓教室を開いている。そしてそ
こでもやはり、「私は、合格します」と、子どもたちに、何度も復唱させているという。
模擬テストもしているというが、その緊張感のあまり、途中で、泣き出してしまう子どももいると
いう。
……これはとんでもない暴論と言ってよい。メチャメチャな指導と言ってもよい。
この時期、愚かな親たちは、(はっきりそう断言してよいが……)、自分の子どもが合格する
ことしか考えていない。またそのための努力しか、してしない。しかし万が一にも、子どもが受
験に失敗したときは、どうするのか。子どもは、どうなるのか?
子どもによっては、それを大きな心のキズ(=トラウマ)としてしまう。子ども自身がキズとする
のではなく、親たちが、そういう状態に子どもを追いこんでしまう。子どもが受験に失敗したと
き、狂乱状態になる親も少なくない。そういう親の姿を見て、子どもは、それを(心のキズ)とし
てしまう。
●内的緊張感と外的緊張感
緊張感にも、2種類ある。その子ども(人)自身の中から、わきでてくる緊張感を、内的緊張
感という。たとえばその子ども自身がもつ、向上心、向学心、競争心、自尊心、好奇心が、そ
の子どもを緊張させる。わかりやすく言えば、これは「善玉緊張感」ということになる。
一方、外的緊張感というのもある、外部から、子どもを脅したり、子ども自身を絶壁のフチに
負いこんだりして与える、緊張感である。「こんな成績では、A中学に入れないわよ」「A中学へ
入れなかったら、あなたはダメになるのよ」と。わかりやすく言えば、これは「悪玉緊張感」とい
うことになる。
幼児にも、内的緊張感をもたせる方法はないわけではないが、しかし少なくとも幼児には、外
的緊張感を、自分の中で、自己処理する能力は、まだない。
理由は明白。自分の立場を、客観的に判断する能力が、まだ育っていないからである。そう
いう幼児に向って、受験の目的、受験の内容、ついでに受験がもつ制度としての社会的意義を
説明しても、意味はない。
子ども自身が、内的緊張感を理解し、その緊張感で、自発的に自分をコントロールするよう
になるのは、早くても小学校の高学年。ふつうは、中学生くらいになってからである。この時
期、内的緊張感をうまく引き出せば、子どもは、自ら伸びる力で、自分自身を前向きに引っぱ
っていく。
●心のキズ(トラウマ)
印象に残っている女の子に、Sさん(当時、中学生)がいた。
彼女はいつも、ここ一番というときになると、何ごとにつけ、自らしりごみしてしまった。私が、
「ここでふんばれ!」「へこたれるな!」と励ましても、彼女の心には届かなかった。理由を聞く
と……というより、いつも、Sさんは、こう言っていた。
「どうせ、私は、S小学校の入試に落ちたもんね」と。
つまりSさんは、もうとっくの昔に忘れていてもおかしくないようなことを、心のキズとしていた。
「だから、私は、ダメな人間だ」と。
親たちは、先にも書いたように、合格することしか考えていない。しかし受験に失敗した子ど
もたちが、いかにそのはざまで、もがき、苦しんでいることか。そういうことについては、親たち
は、ほとんど知らない。Sさんのように、それを心のキズとしてしまう子どもも、決して、少なくな
い。
ひょっとしたら、あなた自身もそうではないのか。
●落ちることを考えて準備する
子どもの受験勉強を考えたら、受験に落ちることを考えて準備する。子どもに準備させよ、と
いうのではない。親自身が、準備する。
万が一にも、不合格の通知が届いたら、あなたは、どうするか。どう対処するか。さらには、
どう子どもには、接するか。それを考えながら、準備する。
しかしここにも書いたように、5歳、6歳の幼児には、まだ(受験)を自己処理する能力はな
い。仮にあったとしても、この時期、合格して、おかしなエリート意識をもたせることは、長い目
で見て、その子どもにとっては、不幸なことである。
だから、子どもの受験勉強を考えたら、受験に落ちることを考えて準備する。
たとえば不合格の通知が届いても、親は、動揺しない。無視する。態度に表さない。平然とし
て、日常生活をつづける。そういう姿勢が、子どもの心を守る。
●情緒不安の原因にも……
よく誤解されることがある。
子どもの情緒が不安定になると、親たちは、それを問題として、それをなおそうとする。ぐず
る、いじける、引きこもる子どもをを、内閉型(マイナス型)とするなら、暴れる、怒りっぽくなる、
ピリピリする子どもは、外方型(プラス型)ということになる。
しかしそれはあくまでも症状。病気にたとえるなら、発熱や悪寒ということになる。
子どもにとって、(もちろんおとなにとってもそうだが)、情緒不安というのは、心の緊張感が取
れないことをいう。その緊張感の中に、不安や心配が入りこむと、心は、その不安や心配を解
消しようとして、一気に不安定になる。その状態を、情緒不安という。
こんなことは、心理学の世界でも、常識ではないか。
そこでこの時期、子どもに外的緊張感を与えれば、子どもの心は、そのまま緊張し、多少の
個人差はあるだろが、子どもの情緒は、不安定化する。何度も書くが、この時期、幼児には、
そうした緊張感を、自己処理する能力は、まだない。
が、それだけではない。
●抑圧は悪魔を生む
イギリスの教育格言に、『抑圧は悪魔を生む』というのがある。
抑圧された心理状態が、恒常的に長くつづくと、子どもの心が悪魔的になることをいう。「死」
「殺す」「地獄」などという言葉に敏感に反応するようになる。それについては、このあとに原稿
(中日新聞掲載済み)を1つ、添付しておく。
はっきり言えば、子どもの心はゆがむ。さらにそれが原因で、親子関係が、破壊されることも
ある。親がそうではなくても、子どものほうが、親から離れていく。
たとえば小学校の高学年児でも、進学塾へ入ったとたん、人間性そのものが変化するという
ことは、よくある。決して珍しくない。親は、「おかげで、緊張感が生まれました」と喜んでいる
が、とんでもない誤解。そうした緊張感の裏で、人間的な暖かい心が、いかに破壊されている
ことか!
毎日、毎晩、成績という点数だけで人間を評価しないような世界が、本当に正常な世界と言
えるのか。そしてその点数だけで、子どもを絶壁のフチに立たせることが、本当に正常な世界
と言えるのか。
どうして世の親たちよ、そんなことがわからないのか!
●無責任な受験塾
受験塾にもいろいろある……と書きたいが、ほんの少しだけ、冷静な目で、受験塾をながめ
てみたらよい。
どんな講師が、どういう教育的な理念をもって、子どもを指導しているか。それをほんの少し
でも、考えてみたらよい。
中には、熱血指導を売りものにしている進学塾もある。子どもたちの話を聞くと、「いつも先生
たちは、竹刀(しない)をもち歩いている」という。当然、親たちの了解を得て、そうしているのだ
ろうが、あまりにもバカげている。コメントする気にもならない。
が、親たちは、そういう進学塾ほど、よい塾だと考える。この愚かしさ。このバカ臭さ。
彼らこそ、子どもたちが合格することしか、考えていない。不合格になったとき、子どもの心の
ケアを考えている進学塾など、話に聞いたこともない。反対に、合格者は、翌年の生徒募集に
利用されるだけ。
その陰で、いかに多くの子どもたちが、キズつき、自らダメ人間のレッテルを張っていること
か!
●ゆがむ人生観
受験期をスイスイと渡り歩いたような人にも、問題がないわけではない。そういう例は、皮肉
なことに、60代、70代の、元エリートと呼ばれる人たちを見ればわかる。
彼らがもつ、一種独特の、あの鼻もちならないあのエリート意識は、いったい、どこから生ま
れるのか。以前、私にこう言った男(当時50歳くらい)がいた。私が、「幼稚園で講師をしてい
ます」と言ったときのことである。
「君は、学生運動か何かをしていて、どうせロクな仕事にはつけなかったんだろ」と。
仕事に、ロクな仕事もなければ、ロクでない仕事もない。
彼は当時、国の出先機関の公社の副長をしていたが、そういう意識をもつようになる。そして
そうしたゆがんだエリート意識が、その人の人生を、味気なく、つまらないものにする。わかり
やすく言えば、人間の価値そのものを、学歴や経歴でしか見なくなる。
●緊張感
適度な緊張感が、子どもを伸ばすということは、私も否定しない。ストレス学説の中でも、それ
は肯定されている。
しかしここでいう緊張感というのは、冒頭に書いた、内的緊張感(善玉緊張感)をいう。向上
心、向学心、競争心、自尊心、好奇心が、その子どもを伸ばす。
ある男児(当時、小6)は、夏期の合同合宿訓練の長に選ばれた。そのため、訓練の冒頭
で、あいさつをすることになった。
その男児は、そのため、その1週間ほど前から、毎晩、眠られない夜を経験した。そして当日
は、フラフラの状態で、あいさつに臨んだ。しかし結果的に、それがうまくできた。以後、その子
どもは、「長」という「長」を総なめにして、学業を終えた。
あるいは、その地域での演奏会に先立って、猛練習をした女児(当時、小5)がいた。そのた
め「演奏会の朝から、胃が痛いと苦しんでいました」(母親談)とのこと。しかし演奏会は、無
事、終わった。その子どもは、そのあと、見ちがえるほど、おとなっぽくなった。
こうした内的緊張感は、たしかに子どもを伸ばす。子どもを伸ばす原動力として作用する。
しかし外的緊張感は、どうか?
「この仕事をしないと殺すぞ」と、ナイフをのどにつきつけられたら、どうか。あなたは、それで
もその仕事をするだろうか。楽しくできるだろうか。自分の力を、じゅうぶん、発揮できるだろう
か。
●結論
幼児に、緊張感をもたせる? そのために、受験を自覚させる?
あまりにもバカバカしい。反論したり、こうして説明するのも、実のところ、バカバカしい。はっ
きり言えば、そこらのド素人の、とんでもない意見。幼児に関する心理学の本を、一冊でも読ん
だことのある人なら、私のこの気持ちが理解できるはず。
しかしそういうことを平気で口にして、幼児の受験指導とやらをしている進学塾もある。これが
現実かもしれない。
だからこそ、私は親たちに向かって、この原稿を書く。そしてもっともっと、親たちに、賢くなっ
てほしい。
+++++++++++++++
子どもの心が破壊されるとき
●バッタをトカゲのエサに
A小学校のA先生(小1担当女性)が、こんな話をしてくれた。「1年生のT君が、トカゲをつか
まえてきた。そしてビンの中で飼っていた。そこへH君が、生きているバッタをつかまえてきて、
トカゲにエサとして与えた。私はそれを見て、ぞっとした」と。
A先生が、なぜぞっとしたか、あなたはわかるだろうか。それを説明する前に、私にもこんな
経験がある。もう20年ほど前のことだが、1人の子ども(年長男児)の上着のポケットを見る
と、きれいに玉が並んでいた。私はてっきりビーズ玉か何かと思った。が、その直後、背筋が
凍りつくのを覚えた。よく見ると、それは虫の頭だった。
その子どもは虫をつかまえると、まず虫にポケットのフチを口でかませる。かんだところで、体
をひねって頭をちぎる。ビーズ玉だと思ったのは、その虫の頭だった。また別の日。小さなトカ
ゲを草の中に見つけた子ども(年長男児)がいた。まだ子どもの小さなトカゲだった。「あっ、ト
カゲ!」と叫んだところまではよかったが、その直後、その子どもはトカゲを足で踏んで、その
ままつぶしてしまった!
●心が壊れる子どもたち
原因はいろいろある。貧困(それにともなう家庭騒動)、家庭崩壊(それにともなう愛情不
足)、過干渉(子どもの意思を無視して、何でも親が決めてしまう)、過関心(子どもの側からみ
て息が抜けない家庭環境)など。威圧的(ガミガミと頭ごなしに言う)な家庭環境や、権威主義
的(「私は親だから」「あなたは子どもだから」式の問答無用の押しつけ)な子育てが、原因とな
ることもある。
もちろんその中には、受験競争も含まれる。
要するに、子どもの側から見て、「安らぎを得られない家庭環境」が、その背景にあるとみる。
さらに不平や不満、それに心配や不安が日常的に続くと、それが子どもの心を破壊することも
ある。
イギリスの格言にも、『抑圧は悪魔を生む』というのがある。抑圧的な環境が長く続くと、ものの
考え方が悪魔的になることを言ったものだが、このタイプの子どもは、心のバランス感覚をなく
すのが知られている。「バランス感覚」というのは、してよいことと悪いことを、静かに判断する
能力のことをいう。これがないと、ものの考え方が先鋭化したり、かたよったりするようになる。
昔、こう言った高校生がいた。「地球には人間が多すぎる。核兵器か何かで、人口を半分に減
らせばいい。そうすれば、ずっと住みやすくなる」と。そういうようなものの考え方をするが、言
いかえると、愛情豊かな家庭環境で、心静かに育った子どもは、ほっとするような温もりのある
子どもになる。心もやさしくなる。
●無関心、無感動は要注意
さて冒頭のA先生は、トカゲに驚いたのではない。トカゲを飼っていることに驚いたのでもな
い。A先生は、生きているバッタをエサとして与えたことに驚いた。A先生はこう言った。「そうい
う残酷なことが平気でできるということが、信じられませんでした」と。
このタイプの子どもは、総じて他人に無関心(自分のことにしか興味をもたない)で、無感動
(他人の苦しみや悲しみに鈍感)、感情の動き(喜怒哀楽の情)も平坦になる。よく誤解される
が、このタイプの子どもが非行に走りやすいのは、そもそもそういう「芽」があるからではない。
非行に対する抵抗力がないからである。悪友に誘われたりすると、そのままスーッと仲間に入
ってしまう。ぞっとするようなことをしながら、それにブレーキをかけることができない。だから結
果的に、「悪」に染まってしまう。
●心の修復は、4、5歳までに
そこで一度、あなたの子どもが、どんなものに興味をもち、関心を示すか、観察してみてほし
い。子どもらしい動物や乗り物、食べ物や飾りであればよし。しかしそれが、残酷なゲームや、
銃や戦争、さらに日常的に乱暴な言葉や行動が目立つというのであれば、家庭教育のあり方
をかなり反省したらよい。子どものばあい、「好きな絵をかいてごらん」と言って紙とクレヨンを
渡すと、心の中が読める。子どもらしい楽しい絵がかければ、それでよし。しかし心が壊れてい
る子どもは、おとなが見ても、ぞっとするような絵をかく。
ただし、小学校に入学してからだと、子どもの心を修復するのはたいへん難しい。修復すると
しても、4、5歳くらいまで。穏やかで、静かな生活を大切にする。
(はやし浩司 受験 子供の受験 緊張 内的緊張感 外的緊張感 受験の心構え 子どもの
バランス感覚 バランス感覚 はやし浩司)
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【シャドウ】
●親の心を代弁する娘
20年ほど前のことだが、こんな事件があった。
あるときある母親が、教室へやってきて、こう言った。「先生、うちの娘(6歳)は、私の心を、
そっくりそのまま口にしてします。
たとえば私が祖母(義理の母親)のことを、内心で、『汚い』と思っていたりすると、娘が、私の
横で、祖母に向って、『あんたは、汚い!』と言うのです。
あるいは、私が内心で、『祖母なんか、いないほうがいい』と思ったとします。するとすかさず
娘が、祖母に向って、「あんたなんか、あっちへ行っていてよ」と言うのですね。
そういう娘を見ていると、ときどき、自分がこわくなります」と。
●親がつくる、シャドウ
いくら善人の仮面をかぶっても、邪悪な心までは、隠せない。他人ならまだしも、自分の子ど
もの前では隠せない。親子というのは、そういうもの。子どもは、親が、心の裏でつくるシャドウ
を、そっくりそのまま読んでしまう。
たとえば(あなた)で、考えてみよう。
あなたには、善良な部分もあれば、邪悪な部分もある。が、接する相手によって、あなたは仮
面をかぶる。
仮面をかぶることが悪いというのではない。だれしも、そのときどきにおいて、ある程度の仮
面をかぶる。よい例が営業上の仮面。ショッピングセンターなどへ行くと、若い女性が、豊かな
笑みを浮かべて、「いらっしゃいませ」と、あいさつする。
しかしそれは営業上の仮面。そういう笑みを見て、「この子は、私に気があるのかも」「人間
的にできた女性だ」と思っていはいけない。仮面は、仮面。
しかし中には、その仮面をかぶっていることを、忘れてしまう人がいる。脱ぎ忘れてしまう人も
いる。
●偽善者
仮面をかぶればかぶるほど、邪悪な心を、心の奥底に封じこめようとする。自分の心の中
に、いわばゴミ箱のようなものをつくる。そこへ邪悪な心を押しこむことによって、さらに、自分
が仮面をかぶっていることを忘れてしまう。
よい例が、牧師や教師が、性的な話や、セックスの話を、ことさら嫌ってみせるというのがあ
る。中には、そういう話題になると、顔を不愉快に曇らせる人もいる。
そういう人というのは、牧師の仮面、教師の仮面をかぶっていることになる。そして自分の中
にある邪悪な心、(だれにでもあるものだが……)、それをゴミ箱の中に押しこんでしまう。
しかしそれで邪悪な心が消えるわけではない。ゴミ箱に入った邪悪な心は、その人のシャドウ
となって、その人を、今度は、裏から操るようになる。その一例が、「偽善者」と呼ばれる人たち
である。
自分の名声を利用して、苦しんでいる人や、貧しい人たちのための救済運動をしてみせたり
する。そうしてさらに、自分の名声にハクをつけ、何らかの利己的利益へと結びつけていく。
●シャドウを受けつぐ子ども
このシャドウをウラからしっかりと見ている人たちがいる。こんな例がある。
ある夜夫が、自宅へ帰ってきた。そしてワイフにこう言った。「今夜、○○の十字路にさしかか
ったとき、突然、横から、自転車が飛び出してきて、ぼくは、ハンドルを右へ切った。そのとき、
あやうく対向車と衝突しそうになったよ」と。
それを聞いたワイフは、すかさず、こう言った。「あんたが、悪いからよ!」と。
夫の話を半分も聞かないうちに、妻が、「あんたが、悪いからよ!」と。
その女性、つまり夫のワイフは、人前では、献身的で従順な妻を演じていた。自分でも、「よく
できた家庭的な妻だ」と思っていた。しかしそれはいわば仮面にすぎなかった。内心では、不本
意な夫と結婚したことを、いつも不満に思っていた。
そういう不満が、姿を変えてシャドウとなり、とっさのときに、思わず、口をついて出てきた。
「あんたが、悪いからよ!」と。そう言わさせたのは、まさに、そのシャドウということになる。
●邪悪な心は、伝播(でんぱ)する
昔から、『親も親なら、子も子だ』という言い方をする。そういう言い方をするときは、決してそ
の親子をほめているからではない。「親も悪いやつだが、子も悪いヤツだ」というニュアンスを
こめて、そう言う。
実際、そういう例は、多い。たいていのばあい、親が小ズルいと、子も小ズルくなる。そうでな
いケースのばあいは、ふつう、子どものほうが、たいへん苦しむ。さらにこんな例もある。
日本中を驚かせるようたような事件を起こしたような子どもの両親をみると、ときとして、「どう
して?」とわからなくなってしまうことが多い。ふつう以上に、ふつうの家庭。両親は、教育熱心
な教師であったりする。地域でも、評判はよい。ある凶悪事件を起こした少年の父親は、その
地域のミニコミ紙を発行していた。
そういう親をもちながら、子どもは、想像もつかないような凶悪な犯罪を犯す! こうした例で
よく持ちだされるのが、今村昌平が監督した映画、『復讐するは我にあり』である。佐木隆三の
同名フィクション小説を映画化したものである。名優、緒方拳が、みごとな演技をしている。
あの映画の主人公の榎津厳は、5人を殺し、全国を逃げ歩く。が、その榎津厳もさることなが
ら、この小説の中には、もう1本の複線がある。それが三國連太郎が演ずる、父親、榎津鎮雄
との、葛藤(かっとう)である。榎津厳自身が、「あいつ(妻)は、おやじにほれとるけん」と言う。
そんなセリフさえ出てくる。
父親の榎津鎮雄は、倍賞美津子が演ずる、榎津厳の嫁と、不倫関係に陥る。映画を見た人
なら知っていると思うが、風呂場でのあのなまめかしいシーンは、見る人に、強烈な印象を与
える。嫁は、義理の父親の背中を洗いながら、その手をもって、自分の乳房を握らせる。
つまり父親の榎津鎮雄は、厳格なクリスチャンで、それを仮面とするなら、息子の嫁と不倫関
係になる部分が、シャドウということになる。主人公の榎津厳は、そのシャドウを、そっくりその
まま引き継いでしまった。そしてそれが榎津厳をして、犯罪者に仕立てあげた原動力になっ
た。
子育てをしていて、こわいところは、実は、ここにある。
親は仮面をかぶり、子どもをだましきったつもりでいるかもしれないが、子どもは、その仮面
を通して、そのうしろにあるシャドウまで見抜いてしまうということ。見抜くだけならまだしも、そ
のシャドウをそのまま受けついでしまう。
●教師とて、例外ではない
親子の関係ほどではないが、教師と生徒との関係においても、同じようなことが起きるときが
ある。生徒が、教師のシャドウをウラから読んでしまう。あるいは、受けついでしまう。
「この先生は、給料のためだけに仕事をしている」「うわべでは、かっこうのいいことばかり言
っているが、実は、オレたちを利用しているだけだ」と。
こうなると、生徒は、その教師の指導に従わなくなる。
私にも経験がある。昔、もう25年ほど前のことだが、月謝袋をポンと爪先ではじいて、私にこ
う言った生徒(高2・男子)がいた。
「おい、あんた、あんたのほしいのは、これだろ!」と。
私は激怒して、即刻、その生徒を退塾処分にしたが、そのときのその生徒は、私のシャドウ
を見抜いていたのかもしれない。あのころの私は、(今でもそうかもしれないが……)、お金の
ために、進学指導をしていた。
●シャドウを消すために
シャドウを消すことは、決して簡単なことではない。それこそ10年単位の年月が必要となる。
何はともあれ、まず、それに自分で気がつかねばならない。
仮面をかぶっているなら、かぶる必要がないときには、その仮面をはずす。はずして本来
の、ありのままの自分にもどる。
つぎに、どんなささいなことからでもよいから、正直に、かつ誠実に生きる。とくに子どもに対
しては、そうだ。ウソをつかない。約束は、かならず守る、など。インチキはしない。ルールは守
る。
そしてそのワクを、自分から、家庭へと広げていく。そういう操作を、繰りかえす。一年や2年
では足りない。ここに「10年単位」と書いたが、私の経験では、それでも少ないのではないかと
思っている。
こうした積み重ねが、やがてシャドウを自分から消していく。そして(あなた)が、「私は私だ」
「これが私だ」と、ありのままの自分で生きることができるようになったとき、同時に、シャドウ
は、あなたから消える。
シャドウは、あなたの子どもの心をゆがめる大敵と考えて、対処する。
(はやし浩司 シャドウ シャドー論 子どもの心 子供の心)
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