●アスペルガー児
●高機能広汎性発達障害(アスペルガー障害児)
【Nさん(東京都在住)からの相談】
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東京都に住んでいる、Nさん(母親)から、
こんな相談が届いている。
「カウンセリングの先生に”高機能広汎性発達障害”
かもしれないといわれてしまいました」という内容
のもの。
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【Nさんより、はやし浩司へ】
はじめまして。
数年前から子育てに関して悩むたびに先生のHPを拝見しております。
息子は現在5歳、公立幼稚園の年長さんです。
2歳頃から数字が大好きで、すべてを数字に関連付けるとあっという間にひらがな、カタカナ、漢字と書けるようになり、現在では小学校2年生レベルの学力を持っているように感じます。
そんな長所とは裏腹に、3歳頃から嫌なことや困ったことがあっても口で言うのではなく、手がでたり、泣いてしまったりで手を焼いていました。親にしてみれば、3歳で足し算引き算を理解できる能力があるのにどうして人の気持ちを察することが出来ないのか自分の気持ちを言葉にすることができないのかとアンバランスさに悩まされていました。
そんな折、市の発育相談でお話させていただいたことがきっかけで現在幼稚園でも年に1回程度の相談を受けさせてもらっています。親にも落ち度があることかと思い、軽い気持ちで相談させてもらっていました。
ところが最近、園で同級生の子供達に暑い、眠たい、お腹すいたなどの理由(本人がそういいます)から意味もなく物を蹴飛ばしたり、友達に当たったりしているそうです。他にも、昨年はなかなかなかの良いお友達を見つけることができなかったのですが、新学期からいつも一緒に遊びたいと思うお友達も出来、幼稚園が楽しい様子なのですが、その子が”遊べない”と誘いを断るとたたいたり、つねったりと相手に手をあげているようです。最近ではその子の母親から先生に対して、どうしてもっと注意しないのか、親はどうしているのか、と相談が寄せられているそうです。
そんな折、先日恒例の発達相談を受け、カウンセリングの先生に”高機能広汎性発達障害”かもしれないといわれてしまいました。そして、他の生徒の親御さんから誤解のないように皆に説明をしてみるのはどうか…と提案されました。
もちろん、専門医の診察は受けていません。この言葉を主人やお姑さんに伝えたところ、二人とも口をそろえて”人の息子を勝手に障害者扱いしやがって””公立に入れたのが失敗や、先生のレベルが低すぎる”と怒ります。確かに自宅での息子は自分の興味あるものへの執着、またそれ以外のものへの無頓着さというのはありますが、やさしい子ですし、問題があってもどこに家庭にでもあるようなことです。
先生方というのは、自分のクラスで手に余る子供に対して何らかの診断をつける事によって責任回避をできることもあるのでは、と思う節もないわけではありません。カウンセリングの先生の見立てに関しては、その可能性を踏まえたうえで(長い目で)親として出来ることをやっていこうと思っています。ただ、専門医に診てもらうというのはどうでしょうか?
公立幼稚園、私立幼稚園で先生に違いはあるのでしょうか?そして上記のような反応を返す家族にたいして私はどのように説明、対処していったらよいのでしょうか?
もっともっと息子の状況をお伝えしたいのですが、どんなことをお伝えしたら先生の判断にお役にたてるのか…。
先生、もしもお時間が許すのであれば是非アドバイスをお願いします。
【はやし浩司よりNさんへ】
11年ほど前から、「アスペルガー」(高機能広汎性発達障害)という言葉が、よく
聞かれるようになりました(1999年ごろ)。
その当時はともかくも、こと「アスペルガー」については、診断方法も確立し、教育、
医療の世界でも一般化し、今では見立てを誤るということは、まずありません。
ですからカウンセラーの先生が、「アスペルガーではないか?」と言ったということ
ですから、その見立てには、ほぼまちがいないものと思われます。
(今ではたいへんわかりやすい障害のひとつです。)
ただ「広汎性」という言葉からもわかるように、症状の内容、軽重は様々で、最近
では、「幅が広い」という意味で、「自閉症スペクトラム」という言葉を使います。
一様ではないということです。
いただいたメールを読む範囲でも、それが疑われます。
たとえば「数字」に、ふつうでない(こだわり)を見せる部分など。
それについて書いた原稿を添付します。
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●自閉症スペクトラムの子どもたち
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「自閉症」と言うと、ほとんどの親たちは、
(無口で、内気。殻(から)に閉じこもった
子ども)を想像する。
しかしこれは誤解。
そこで最近では、自閉症という言葉はあまり
使わない。
「広汎性発達障害」という言葉を使うことが
多い。
(以前は、多動性、多弁性のある自閉症児を、
「活発型自閉症児」と呼びことが多かった。)
また症状や程度は、千差万別。
ふつうの子ども、(この言葉には、少なからず
抵抗を覚えるが)、そのふつうの子どもと
ほとんど違わないレベルから、顕著な症状の
現れる子どももいる。
そのため患者数も、36万人~120万人
(日本自閉症協会)と、大きな幅がある。
そのこともあって、最近では、「スペクトラム」
という言葉を使うことが多い。
「自閉症スペクトラム」というような言い方を
する。
たとえば現在、自閉症といっても、高機能自閉症
(アスペルガー症候群含む)は、区別して考える。
症状としては、AD・HD児や、LD児のそれを
併せもつケースも多い。
もちろん知的障害をもった子どもも多い。
が、先にも書いたように、その境界が、よくわからない。
わからないという意味で、「スペクトラム」という
言葉を使う。
「スペクトラム」というのは、光の分光器で光を
分解したときのように、それぞれの症状が、多岐、
複雑に分かれ、かつ連続性をもつことをいう。
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●自閉症スペクトラム
診断については、DSMによる診断基準が、広く、一般的に使われている。
ウィキペディア百科事典に出ている、「DSMによる診断基準」を、そのまま紹介
させてもらう。
+++++以下、ウィキペディア百科事典「自閉症」より転載+++++
DSMの診断基準
DSMの診断基準に挙げられている症状は次の通り。
●コミュニケーションにおける質的な障害
○視線の相対・顔の表情・体の姿勢・身振り等、非言語行動がうまく使えない。
○(例)会話をしていても目線が合わない。叱られているのに、笑っ
ている。
○発達の水準にふさわしい仲間関係が作れない。
○興味のあるものを見せたり指さしたりする等、楽しみ・興味・成果を他人と
自発的に共有しようとしない。
○対人的または情緒的な相互性に欠ける。
●(例)初対面の人に対する無関心。
●意思伝達の質的な障害
○話し言葉の発達に遅れがある。または全く話し言葉がない。
(例)クレーン現象
○言語能力があっても、他人と会話をし続けることが難しい。
(例)一問一答の会話になってしまう。長文で会話ができない。
○同じ言葉をいつも繰り返し発したり、独特な言葉を発する。
(例)人と会話をする際に同じ返事や会話を何度もする。
○発達の水準にふさわしい、変化に富んだ『ごっこ遊び』や社会性を持った
『物まね遊び』ができない。
●限定され、いつも同じような形で繰り返される行動・興味・活動(いわゆる「こ
だわり」)
○非常に強く、常に繰り返される決められた形の一つ(もしくはいくつか)の
興味にだけ熱中する。
○(例)特定の物、行動などに対する強い執着心。
○特定の機能的でない習慣・儀式にかたくなにこだわる。
(例)物を規則正しく並べる行動。
(例)水道の蛇口を何度も開け閉めする行動。
○常同的で反復的な衒奇(げんき)的運動物体の一部に持続的に熱中する。
(例)おもちゃや本物の自動車の車輪・理髪店の回転塔・換気扇な
ど、回転するものへの強い興味。
(例)手をヒラヒラさせて凝視する。
+++++以下、ウィキペディア百科事典「自閉症」より転載+++++
●軽重の判断を正確に
この診断基準を読んでもわかるように、自閉症のもっとも顕著な特徴は、他者との
良好な人間関係(コミュニケーション)をとれないところにある。
もちろんその程度も、子どもによってちがう。
一日中、小刻みな運動を繰り返し、ほとんどコミュニケーションがとれないタイプの
子どももいれば、ふとしたきっかけで、親や兄弟たちと、いっしょになって行動する
というタイプの子どももいる。
そこで自閉症が疑われたら、まずどの程度の症状かを、正確に把握する必要がある。
症状が軽いばあいには、自閉症であることをあまり意識せず、(ふつうの子ども)として、
ふつうの環境で育てるのがよい。
私の経験でも、自己管理能力が育つ、小学3~4年生を境にして、症状は急速に収まって
くる。
大切なことは、それまでに症状をこじらせないこと。
多くのばあい、その症状の特異性から、親が乳幼児期に、はげしく叱ったり、ときに
暴力を加えたりしやすい。
こうした一連の不適切な対処の仕方が、子どもの症状をこじらせる。
●原因
こと教育の場では、(原因さがし)というのは、しない。
しても意味はない。
「そこにそういう子どもがいる」という立場で、指導を開始する。
ただ親には、ある程度のことは話す必要がある。
というのも、自閉症が疑われると、ほとんどの親は、その瞬間から、はげしい
絶望感を覚える。
が、こと自閉症に関していえば、「脳の機能障害」であり、さらにわかりやすく
言えば、一時的であるにせよ、あるいは長期的にあるにせよ、機能が不全の状態
であるにすぎない。
(詳しくは、ウィキペディア百科事典を参照のこと。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E9%96%89%E7%97%87)
たとえば私のばあい、軽度自閉症であれ、アスペルガー症候群であれ、高機能
自閉症であれ、その子どもが一定のワクの中に入れば、そうした「障害」は無視し
て指導を開始する。
(ここでいう「高機能」というのは、「知的な障害が見られない」という意味で、
そう言う。)
つまり診断名を親に告げる必要はないし、(また「診断名」を告げることは、
タブー中のタブー)、原因や、将来の予想を告げる必要もない。
重要なことは、「先月よりも、今月はよくなった」「半年前より、症状が軽くなった」
という状況を作ることである。
またそういう状況になるように、指導に専念する。
●親の無理解
症状が重く、医師による診断がくだされているケースは、別として、先にも
書いたように、症状があいまいな子どもも少なくない。
(ただし医師の診断が、いつも正しいとはかぎらない。
私も医師によって「自閉症」と診断された子どもを、何十例と指導してきた経験
があるが、そのうち3~4割については、「?」と感じている。)
たいていは2~3歳ごろになって、「どうもうちの子は、おかしい」「言葉の
発達が遅れている」「落ち着きがなく、突発的に錯乱状態になる」などの症状が
現れて、ふつうではないことに気づく。
多動性、衝動性が見られることも多く、そのため先にも書いたように、はげしく
叱ったり、ときに暴力を加えたりしやすい。
それが症状をこじらせるだけではなく、指導するばあいも、親の協力が得られず、
苦労する。
やっとの思いで、(ふつうの子ども?)になっても、「この教室は効果がなかった」
という判断をくだして、そのまま去って行く親も少なくない。
(というより、そういうケースが、ほとんどと考えてよい。)
そういうばあい、私(=指導者)が受ける落胆感というか、絶望感には相当な
ものがある。
自閉症にかぎらず、親の無知、無理解が原因で、そうした絶望感を味わうことは
じばしばある。
が、いまだに、その絶望感だけは、どうしようもない。
つまりこういうことが重なるため、指導する側(幼稚園や保育園を含む)は、
どうしても指導に消極的になる。……ならざるをえない。
目に余るほど症状が顕著なばあいには、入園そのものを断るケースが多い。
●希望
最近では、自閉症児に対する理解も進み、またその周囲環境も整えられてきて
いる。
いろいろな団体や組織が、治療プログラムを用意し、好成績を収めている。
またあくまでも機能障害であり、(機能の改善)をめざした医学的治療法も、
現在急速に進歩しつづけている。
原因についても、大脳生理学の分野で、かなり精密に解明されつつある。
また(流れ)の中でみると、自閉症児にかぎらず、AD・HD児、かん黙児
にしても、小学3~4年生を境に、急速に症状が緩和されてくる。
とくに脳内ホルモンのバランスが調整されてくる思春期前夜ごろになると、
子ども自身がもつ、自己治癒機能が働くようになる。
専門家が見れば、そうとわかるが、そうでなければ、外目にはわからなくなる。
つまりその程度までに、改善する。
そのため仮に、専門機関で自閉症と診断されても、(親が受けるショックは
大きいが)、それを「終わり」と考えてはいけない。
そのためにも、つぎのことに注意する。
(1)専門機関で診断名をつけてもらい、自閉症に対する知識をしっかりともつ。
(2)愛情の糸だけは大切にし、どんなばあいも、子どもを「許して忘れる」。
(3)乳幼児期には、「症状を悪化させないこと」だけを考える。
(症状をこじらせれば、いろいろな合併症を併発する。
また立ち直りも、その分だけ遅れる。)
(4)治療のターゲットを、小学3~4年生(9~10歳)ごろに設定する。
それまではジタバタしない。
「ようし、十字架のひとつやふたつ、背負ってやる」という前向きな、
暖かい愛情が、何よりも重要と心がける。
(5)幼稚園以後の教育法などについては、各地域にある、「発達障害相談窓口」
(多くは保健所、保険センター)に相談するとよい。
現在、この浜松市でも、10年前とは比較にならないほど、そうした障害
をもつ子どもに対する支援プログラム、支援組織、支援団体が組織化されている。
けっして「私、1人」と、自分を追い込んではいけない。
(2009年7月22日記)
(はやし浩司 家庭教育 育児 育児評論 教育評論 幼児教育 子育て Hiroshi
Hayashi 林浩司 BW はやし浩司 自閉症 自閉症スペクトラム)
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
●かんしゃく発作
Nさんのお子さんについて言えば、「暴力的行為」の部分について言えば、同時に
かんしゃく発作も疑われます。
つまり「自閉症スペクトラム」と、「かんしゃく発作」が同居しているというふうに、
私は判断します。
(もちろん私はドクターではありませんので、カウンセラーの先生の指示に従って
ください。
あくまでも参考的意見です。)
「かんしゃく発作」については、一般的には「家庭教育の失敗」とみます。
とくにこのタイプの子どもは、根気ある指導、深い親の理解と愛情が必要です。
が、どこかで短絡的に叱ったり、突き放したりしてしまった。
親子関係がわかりませんが、下の子がいれば、愛情飢餓、愛情不足も疑われます。
「自閉症スペクトラム」イコール、「暴力的行為」ということではありません。
よく見られる症状は、
(1)キレるとき、カラにこもってしまい、異常にがんこになる。
(2)まちがいを指摘したり、注意したりすると、異常にがんこになる。
ときに体を震わせて、それに抗議する、など。
能力的には、問題がないばかりか、ある特異なことに強い関心と理解を示します。
たとえば数学的な部分については、天才的な能力を発揮するなど。
そのあたりをよく観察して、ご自身で判断するのがいちばんよいかと思います。
これも以前書いた原稿ですが、参考のために、再録しておきます。
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
【アスペルガー障害】
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症状から、明らかに「アスペルガー障害」と
思われる子どもについての相談があった。
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【はやし浩司より、GN先生へ】
GN先生へ
拝復
お手紙、ありがとうございました。相談のあった子どもを、以下、T君(男児)としておきます。
私はドクターではありませんので、子どもを診断することはできませんが、症状からすると、T君は、アスペルガー障害(アスペルガー症候群)と、活発型自閉症の複合したタイプと考えてよいのではないでしょうか。それが基本にあって、不適切な家庭環境と指導で、症状がこじれてしまっている。私は、そう判断しました。
以下、アスペルガーついて、いくつかの文献から、資料をあげてみます。
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●文献より
【臨床心理学・稲富正治・日本文芸社】
自閉性障害の中でも、言葉や、記憶の発達に遅れがないケースを、「アスペルガー障害」と呼ぶ。
対人関係の障害と興味や活動が限定されているという点が、特徴である。
高機能自閉症とともに、高機能広汎性発達障害に含まれる。
圧倒的に男児に多く、知能は平均以上であるものの、コミュニケーションがうまく取れなかったり、不器用であるため、孤立しやすくなる。
計算や文字、地図など限定されたものに対して、異常なほどの関心を示し、その中で独創性を発揮する人もいる。が、自分が守っている範囲に、他人が侵入してきたり、乱されたりすることに対して、著しく、攻撃的になる。
原因は、中枢神経の障害であると言われているが、まだ解明されたわけではない。遺伝の要素も強く、パーソナリティ障害や情緒障害と診断されるケースもあるため、診断には最新の注意が必要。
最近では、対人関係のトラブルをどのように解決するかを意識的にトレーニングする、行動療法などの治療法がある。
【発達心理学・山下富美代・ナツメ社】
アスペルガー障害は、言語発達に遅れがみられないほか、知能も高い水準を維持しているといわれる。しかし自閉症と同様に、相互的な対人関係の障害がみられること、ある特定のものに対する関心の程度が高すぎることなどが特徴である。
また自閉症とともに、男の子に多い障害でもあり、医学的な治癒は難しいとされている。
特徴としては、(1)正常な対人関係をもつことは困難、(2)特定のものに対する、こだわり、興味の偏(かたよ)りがみられる。(3)言語障害はみられない。
【心理学用語・渋谷昌三・かんき出版】
……ウィングは、自閉症には、3つの特徴があると説明している。
(1)社会性の問題
自分の体験と他人の体験が重なりあわない。(他人がさっと顔色を変え、怒った表情をすれば、自分が悪いことをその人に言ったのではないかと思うが、自閉症の人は、こうした他人の感情を推し量るのが、非常に苦手。)
(2)コミュニケーションの問題
言葉の遅れから、双方のコミュニケーションが、うまくとれない。(声の大きさや、イントネーションの調整が苦手、自分の意見を言うとき、どのように言うべきかを迷う。)
(3)想像力の遅れ
1つの対象に、異常なほど興味を示す。特定の儀式にこだわる。
これらの特徴のうち、コミュニケーションの障害が、非常に軽いものを、「アスペルガー症候群」と呼ぶ。軽い遅れというのは、冗談が通じにくい、比喩を使った表現が理解しにくいことをいう。
すなわち、アスペルガー症候群は、言語発達の遅れが目立たず、知的には正常だが、生まれつき社会性の障害と、こだわり行動をもっている自閉症を指す。
【臨床心理学・松原達哉・ナツメ社】
アスペルガー障害は、乳児期後半から特徴が出始め、6~7歳に顕著になる。ほとんど男児のみにみられる障害である。
言語的な発達には遅滞はないが、言葉は単調で、抑揚がないという特徴がある。言語や容貌に子どもらしさがなく、コミュニケーションがとれず、集団の中では孤立することが多い。
特定の対象、数字・文字・地図・貨幣などに興味を示し、独創性もあり、知能は平均以上と推定される。しかし自己の領域を侵されると、パニックを起こし、攻撃的になる。また、多くの全体的な知能は正常だが、著しく、不器用であることが多い。
青年期から成人期へ、症状が持続する傾向が強いが、統合失調症(精神分裂病)の診断基準は満たさないので、成人後も、精神分裂病にはならないといわれている。
治療法は、その子どもの特性を理解し、それに合った、治療・教育をすれば、じゅうぶん社会に適応できるようになる。大切なことは、病態に対する周辺の理解であり、治療においても、社会福祉的な領域が重要になる。
……アスペルガー症状は、自閉症と類似しており、自閉症の軽度の例にもみえるため、それぞれの診断は困難である。
症状の例として、本人のやっていることを中断させると、突然、怒り出すなどがある。
(はやし浩司 家庭教育 育児 育児評論 教育評論 幼児教育 子育て はやし浩司 アスペルガー アスペルガー障害 アスペルガー症候群 アスペルガー症)
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●親自身の問題
こうした事例で、まず注意しなくてはいけないのは、親自身が、すべてを話しているかどうかということです。つまりほとんどの親は、自分に都合の悪いこと、たとえば不適切な対処法で、子どもの症状を、かえってこじらせてしまったようなことについては、話しません。
無意識のうちに、こじらせてしまうというケースもありますが……。
T君について言えば、乳幼児期から多動性があったということですが、この段階で、母親が、かなりきびしく叱ったり、怒ったり、あるいは体罰としての暴力を振るったことも、じゅうぶん、考えられます。
T君にみられる、一連の不安症状、さらには、基本的な不信関係は、そういうところから発生したと考えられます。母親からの報告内容にしても、まるで他人ごとのような観察記録といった感じで、私はそれを読ませてもらったとき、「?」と思いました。あたかも、「うちの子は、生まれつきそうで、それは、私の責任ではない」と言わんばかりの内容ですね。
で、私の経験を話します。
●私の経験より
【U君(小3児)のケース】
U君を最初に預かったのは、まだ、「アスペルガー症候群」という言葉が、ほとんど知られていないころでした。1990年代の中ごろです。(1944年に、オーストリアの小児科医のアスペル
ガーが、その名前の由来とされていますが、日本でこの名称が使われ始めたのは、90年代に入ってからです。)
最初、自閉症かなと思いましたが、知的能力の遅れはなく、言語障害も、みられませんでした。が、いくつかのきわだった特徴がみられました。
(1)ほかの子どもと仲間になれない
そのあと、U君が小学校を卒業するまで、私が週2回指導しましたが、最後の最後まで、結局は、友だちができませんでした。いつも集団から1歩、退いているといった感じで、軽い回避性障害もありました。集団の中へ入ると、心身が緊張状態になってしまうからです。
(2)ずば抜けた算数の力
計算力はもちろん、算数全般について、ずば抜けた能力を示しました。知的能力は、平均児より高かったのですが、最後まで、乱筆には、悩まされました。文字を書かせても、メチャメチャでした。こうした不器用さは、アスペルガー障害の子どもに、共通しています。こまかい作業が苦手で、それをさせると、混乱状態から、突然、キレた状態になることもあります。
(3)極端な自己閉鎖性
U君のばあいは、まちがいを指摘しただけで、突然、キレて、激怒することもありました。(軽いばあいは、顔をひきつらせて、大粒の涙だけを流す、など。)たとえば計算問題などで、まちがいを見つけ、「やりなおしなさい」と指示しただけで、キレてしまう、など。
(キレないときもありましたが、あとでノートを見ると、エンピツで、きわめて乱暴に、それを塗りつぶしてあったりしました。)
こうした特徴を総合すると、U君には、心の持続的な緊張感、特別なものへのこだわり、自己閉鎖性があったことになります。
幸いなことに、U君のケースでは、母親が、たいへん穏やかで、心のやさしい人でした。ですからそれ以上、心がゆがむということは、U君のばあいは、ありませんでした。私は、当時は、「U君は、ほかの子どもとはちがう」と判断し、U君はU君として、指導しました。
●治療は考えない
こういうケースで重要なのは、アスペルガー症候群にかぎらず、子どもの心の問題に関することは、「治そう」とか、「直そう」と思わないことです。
「あるがままを認め」、「現在の状態を、今より悪くしないことだけを考えながら」、「半年、あるいは1年単位で、様子をみる」です。
で、相談をいただきましたT君にケースですが、全体に、周囲の人たちが、「治そう」とか、「直そう」とか、そういう視点でしかT君をみていないのが、気になります。「少しよくなれば、すぐ無理をする」。その結果、症状を再発させたり、悪化させたりしている。あとは、その繰りかえし。そんな感じがします。
U君のケースのほか、兄と弟でアスペルガー障害のケースなど、「アスペルガー」という言葉がポピュラーになってから、(2000年以後ですが……)、私は、4例ほど、子どもを指導してきました。
(最近は、体力の限界を感ずることが多く、指導を断るケースが、多くなりました。)
その結果ですが、アスペルガー障害そのものの(治癒)は、たいへんむずかしいということです。そのかわり、小学3、4年生ごろから、自己意識が急速に育ってきますから、それを利用し、子ども自らに自己管理させることで、見た目には、症状を落ち着かせるということはできま
す。
子ども自身が、自分で自分を管理できるように、指導していくわけです。
しかしこれも、1年単位の根気と、努力が必要です。とくに指導する側は、その生意気な態度のため、カッとなることもあります。たとえばU君のばあいでも、私がまちがいを指摘しただけで、私に向かってものを投げつけてきたことがあります。あるいは、ぞんざいな態度で、「ウルセー」と、言い返してきたこともあります。
そういうとき、ふと、その子どもが、アスペルガー障害であることを忘れ、「何だ、その態度は!」と叱ってしまうこともありました。「根気が必要だ」というのは、そういう意味です。
先生からいただいた報告の中に、担任の教師が、かなり乱暴な指導をしたという記録が書いてありますが、それもその一例と考えてよいのではないでしょうか。記録だけを読むと、担任の教師が悪いように思われますが、このタイプの子どもの指導のむずかしさは、ここにあります。
子どもがキレた状態になったとき、きわめて生意気な様子をしてみせるからです。ふつうの態度ではありません。おとなを、なめ切ったような態度です。
●親側の問題
で、先にも書きましたが、現在、T君と母親の関係についても、考えなければなりません。親というのは、こういうケースでは、自分に都合の悪いことは、話しません。そういう母親がよく使う言葉が、先にも書きましたが、「生まれつき」という言葉です。
「うちの子は、生まれつき、こうです」と。
子どもの症状を悪化させながら、その意識も、自覚もない。もっとも、だからといって、親を責めてもいけません。親は親で、そのときどきにおいて、懸命に子育てをしているからです。懸命にしている中で、客観的に自分を見る目を失ってしまう。よい例が、不登校児です。
子どもが「学校へ行きたくない」などとでも言おうなら、その時点で、たいていの親はパニック状態になり、子どもを、はげしく叱ったり、暴力的に学校へ行かせようとします。この無理が、症状を悪化させてしまいます。
たった一度の一撃でも、子どもの心が大きくゆがむということは、珍しくありません。
で、その時点で、親が冷静になり、「そうね。どうして行きたくないのかな? 気分が悪ければ、無理をしなくていいのよ」と親が言ってやれば、不登校は不登校でも、それほど長期化しなくてすんだかもしれません。そういうケースも、私は、やはり何十例と経験してきました。
●年単位の観察を
先生からいただいた報告書を読むかぎり、親も、担任の教師も、みな、少しせっかちすぎるのではないかと思います。先にも書きましたが、この問題だけは、1年単位、2年単位で、症状の推移をみていかなければなりません。
「先月より今月はよくなった」ということは、本来、ありえないのです。ですから週単位、月単位の変化を記録しても、意味はありません。またそうした変化に一喜一憂したところで、これまた意味がありません。もう少し、長いスパンで、ものを考える必要があります。
簡単に言えば、現在のT君を、あるがままに認め、そういう子どもであるということに納得し、(もっとわかりやすく言えば、あきらめて)、対処するしかありません。T君は、給食におおきなわだかまりをもっているようですが、そういう子どもと、先に認めてしまうのです。
それを何とか、食べさせようと、みなが無理をする。それが症状をして、一進一退の状態にしてしまう。あるいはときに、もとの木阿弥にしてしまう。
……といっても、年齢的に、小4ということですから、症状は、すでにこじれにこじれてしまっていると考えられます。本来なら、乳幼児期にそれに気づき、その時点で、親がそれに納得し、指導を開始するのが望ましいのですが、報告書を読むかぎり、そういった記録がありません。
ご指摘のように、T君の親は、学校側の指導法ばかりを問題にしているようですね。しかし、これでは、いけない。本来なら、専門のドクターに、しっかりとした診断名をくだしてもらい、そうであると親自身が納得しなければなりません。
で、指導する側の私たちとしては、「知って、知らぬフリ」をして指導するわけです。私が指導してきた子どもたちにしても、現在、指導している子どもたちにしても、私は、「知らぬフリ」をして、指導してきました。今もそうしています。もちろん私のほうから、診断名をくだすということは、絶対に、ありえません。またしてはなりません。
が、親のほうから、たとえば「アスペルガー」という言葉が出てきたときは、話は別です。そのときはそのときで、「アスペルガー」という言葉を前面に出し、指導します。しかしそれまでは、知らぬフリ、です。
ただ「そうでない」という判断はくだすことがあります。自閉症の子どもではないかと心配してきた親に対して、「自閉症ではないと思います」というように、です。そういうことは、しばしばあります。
●親の無知
で、やはり、ここは親に、それをわかってもらうという方法をとるしかありません。しかしこれも、むずかしいですね。
最近でも、明らかにADHD児の子ども(小5)がいました。で、それとなく親に聞いてみたのですが、親は、まったく自分の子どもがそうであることさえ疑っていないのを知り、がく然としたことがあります。「うちの子は、活発な面はあるが、ふつうだ」と。
つまり親の無知、無理解をどう克服するかという問題も、生まれてきます。アスペルガー障害であれば、なおさらでしょう。幼児教育の世界でも、この言葉がポピュラーになったのは、ここ5、6年のことですから……。
以上、私の独断で、T君を判断してしまいましたが、まちがっていることもじゅうぶん、考えられます。一番よいのは、私自身が、T君を直接観察してみることです。また機会があれば、そっと遠くから観察してみてもよいです。ご一考ください。
あまりよい返事になっていませんが、さらに最近の研究では、環境ホルモンによる脳の微細障害説を唱える学者もいます。アスペルガー障害にかぎらず、このところ、どこか「?」な子どもがふえているのは、そのためだ、と。
あくまでも、参考的意見として、お読みいただければうれしいです。
では、今日は、これで失礼します。
長々とすみませでした。相談いただいたことをたいへん光栄に思い、感謝しています。ありがとうございました。
敬具
はやし浩司
Hiroshi Hayashi++++++はやし浩司
【Nさんへ】
●こじらせない
この10年間だけでも、10人以上の子どもについて、3~8年間指導してきた経験
があります。
もちろん診断名を口にすることはありませんでした。
親の方も、口にすることはありませんでした。
たがいに暗黙の了解(?)というような状態でした。
で、結論から言うと、簡単には治らない。
その中でもK君(幼児~小5まで指導)は、毎週名古屋にある、そういった子どもを専門に指導する会に通っていました。
効果があったというよりは、「どの部分が効果なのか」、私にはよくわかりませんでした。
言い替えると、もしそうであっても、診断名は忘れて、「うちの子は、そういう子」と、
割り切って対処するのがいちばんよいかと思います。
ちょっとむずかしい性格と考えて、割り切ります。
ドクターはすぐ薬物投与を考えますが、私は慎重に考えたほうがよいと思います。
というのも、小学3、4年生を境に、自己管理能力が育ち、子ども自身の力で、自分を
コントロールするようになるからです。
そのあとは、急速に、症状はわかりにくくなります。
大切なことは、無理な指導で、症状をこじらせないこと、です。
(もちろん症状の軽重にもよりますが……。)
先生や友だちの親には、「すみません。ああいう子ですから」と、先に頭をさげてすませ
ます。
もちろん診断名を告げる必要はありません。
相手の親たちは、もっと無知(素人)なのですから。
そうしたこともふまえた上で、一度専門医に相談してみることは、必要かもしれません。
対処の仕方も見えてきます。
また誤解により、子どもを叱りつけるなどという行為にも、自制が働くようになります。
さらに言えば、「障害」という言葉に、あまり神経質になってはいけません。
英語では、「disorder」という名前をつけています。
「脳の機能の変調」という程度に考えてください。
(「障害」という言葉は、いやですね。私は言い方を変えろと、もう10年以上も前から
主張しているのですが……。)
親戚の方がショックを受けるのは、当然のことですが、ここは冷静に。
やがてすばらしい能力を発揮するようになります。
そのときまで、今は、がまんしてください。
「高機能広汎性発達障害」というのは、そういう「障害」です。
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2010/07/16記
Hiroshi Hayashi+++++++July. 2010++++++はやし浩司
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