*How can we remind of something in the brain?
●記憶のメカニズム
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脳科学の進歩にはめざましいものがある。
それはそれとして、現象面からとらえた
脳の機能については、ほとんどといって
よいほど、研究が進んでいない。
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●こんな例で……
パソコンに向かって作業をする。
そのとき、ふと座右にある重要ファイルが気になった。
IDナンバー、パスワードなどが、そのファイルの中に入っている。
心のどこかで、「あとでしまわなくては……」と思う。
が、そのとき、小便がしたくなった。
下半身がムズムズしてきた。
そのこともあって、足で足元のコードをひっかけた。
とたん、スピーカーが床にゴロリと落ちた。
「トイレから帰ったら、もとに戻そう」と考える。
こうしてしばらく時間が過ぎる。
が、生理現象というのは、正直だ。
やがてがまんできなくなって、立ち上がる。
トイレに向かう。
で、書斎に帰る前に、居間で、水を飲む。
ワイフと話す。
……しばらくして書斎に帰り、パソコンの前に座る。
座ってから、ファイルとスピーカーのことを思い出す。
ファイルをしまうにも、スピーカーを戻すにも、一度立ち上がらなければ
ならない。
私の椅子は、宇宙船のコクピットのようになっている。
(少し大げさだが……。)
一度座ったら、なかなか立ち上がれない。
私は、そのとき、記憶について考える。
こういうケースでは、私は居間から帰ってきたとき、ファイルのことも、
スピーカーのことも忘れてしまっていたことになる。
覚えていたら、座る前にファイルを片づけ、スピーカーをもとの位置に
戻したにちがいない。
そこで自分の記憶の中をさぐってみる。
すると、こうして文章を打ちながらも、そのつど、瞬間、瞬間に、
まるで映画の中に別のコマが入ってくるように、いろいろな記憶が
飛び交っているのがわかる。
仮にこれを「コマ入れ」と呼ぶことにしよう。
昨夜見た映画のこと。
夕食の献立。
明日の過ごし方。
教室のこと。
……などなど。
つまり(思い)というのは、同時に2つ、あるいは3つ、4つと、
並行してもてないしくみになっている。
ひとつのことを考え始めたら、そのほかのことは頭の中から消える。
集中力のある人ほど、そうではないか。
ところでパソコンの世界には、「デュアル・コア」という言葉がある。
CPU(中央演算装置)が、脳みそを2つもっていると考えると
わかりやすい。
「デュアル」というのは、「2つの」という意味である。
さらに「クァッド・コア」というのもある。
脳みそを4つもっていると考えると、わかりやすい。
もし人間も、脳みそを2つとか、4つもっていれば、同時進行の形で、
複数の(思い)を処理できるかもしれない。
しかし悲しいことに(?)、ひとつしかない。
そこで脳みそは、瞬時、瞬時に、先ほども書いたように、ほかの記憶を
呼び起こす。
「ファイルは、どうした?」、「スピーカーは、どうした?」と。
その瞬間、それが重要なものであれば、脳の中で、拡大される。
「ファイルをしまわなくては」とか、「スピーカーをもとに戻さなくては」と。
そこでこういうことも言える。
もしその瞬間、瞬間の「コマ入れ」がなかったら、私は、ファイルのことも、
スピーカーのことも思い出すことはなかっただろう。
再び座右にファイルを見つけるまで、ファイルのことは忘れてしまっていたに
ちがいない。
スピーカーについても、そうである。
つまり「記憶」を現象面からとらえると、私は、たいへん記憶力が悪い人間
ということになる。
一方、その「コマ入れ」がはげしくても、困る(?)。
先ほども書いたように、集中力そのものが、分散してしまう。
だから適当に「コマ入れ」をし、そのつど、そのコマのことは忘れる。
これが現象面からとらえた、記憶のメカニズムということになる。
またこういう現象面でとらえた記憶のメカニズムについて、少なくとも
それを問題にした文献を、私は知らない。
ここに書いた「コマ入れ」という現象にしても、言葉にしても、私が
発見し、考えたものである。
さて、あなた自身は、どうか?
何かの作業をしながらも、そしてその作業に集中しながらも、瞬間、瞬間に、
いろいろなことが頭の中に飛来してくるのがわかるはず。
それが的確にできる人を、「記憶力のすぐれた人」という。
それができない人を、そうでない人という。
で、私のばあい、小便については、忘れることはなかった。
これは生理的な現象だから、いくら忘れようとしても、体のほうが
勝手に反応してしまう。
一方、ファイルやスピーカーのことは、椅子に座るまで思い出すことが
なかった。
だからその分だけ、「コマ入れ」が鈍かったということになる。
もし的確な「コマ入れ」がなされていたら、椅子に座る前に、ファイルや
スピーカーのことを思い出していたはず。
……ということで、今日は新しい発見を、ひとつゲット!
多分、このことは、まだだれも気がついていないはず。
そういうことを発見し、こうしてものの書くのは、ほんとうに楽しい。
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