*Junenile Delinquency
【非行】
【子どもを伸ばすコツ】
子どもを伸ばす最大のコツは、(子どもがしたいと思っていること)と、(子どもが現実にしていること)を、一致させてあげることです。とくに乳幼児期は、遊びを通して、それを実現します。
「ぼくは、これをしたい。だからこれをする」「私はこれをしたい。だからこれをする」と。
こうして(子どもの中の私)と、(現実の私)を一致させます。これをアイデンティティの確立といいます。
こうしてその子どもは、自分の進むべき道を、自分でさがし求めるようになります。
ただ一つ、誤解してはいけないのは、(したいこと)は、そのつど、変化するということです。たとえば、幼児のことは、「ケーキ屋さんになりたい」と言っていた子どもが、小学生になると、「パン屋さんになりたい」「お花屋さんになりたい」などと言うようになるかもしれません。
しかしそのときでも、(自分がやりたいことに向って努力する)という、思考プロセス(=思考回路)は、頭の中に残ります。この思考プロセスこそが重要なのです。
中身は、そのつど、変わります。変わって当然なのです。
ここでは、「非行」をテーマに、この問題について考えてみます。子どもの非行というのは、子ども自身が、(やりたいこと)を見つけ出せなくなったとき、その代償的方法(あるいは自己防衛的方法)として、始まります。
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●非行のメカニズム
子どもの非行。その非行に子どもが走るメカニズムは、意外に単純なもの。言いかえると、子どもを非行から防ぐ方法も、簡単。
【第一期・遊離】
(したいこと)と、(していること)が、遊離し始める。「ぼくは、サッカーをしたい。しかし塾へ行かなければならない」など。「私はケーキ屋さんになりたいのに、親は、勉強をして、いい大学へ入れと言う」など。
(~~したい)と思っていることと、(現実にしていること)が、遊離し始める。つまり子ども中で、アイデンティティ(自我の同一性)が、混乱し始める。
アイデンティティが、混乱し始めると、子どもの心理状態は、不安定になる。怒りっぽくなったり(プラス型)、反対にふさぎやすくなったりする(マイナス型)。
この状態を、「同一性の危機」という。
この段階の状態に対して、抵抗力のある子どもと、そうでない子どもがいる。幼少期から、甘やかされて育った子どもほど、当然、抵抗力がない。遊離したとたん、一気に、つぎの(同一性の崩壊)へと進む。
一方、幼少期から、家事の手伝いなどを日常的にしてきた子どもほど、抵抗力が強い。子どもの世界では、(いやなことをする力)を、「忍耐力」という。その忍耐力がある。
アイデンティティが混乱したからといって、すぐ、つぎの第二期に進行するわけではない。個人差は、当然、ある。
【第二期・崩壊】
(したいこと)と(していること)が、大きくズレてくると、子どもは、まず、自分を支えようとする。
がんばる。努力する。が、やがて臨界点にさしかかる。子ども自身の力では、それを支えきれなくなる。
「野球の選手をめざして、もっとがんばりたいのに、毎日、勉強に追われて、それもできない」「勉強はおもしろくない」「成績が悪く、つまらない」と。
こうして同一性は、一気に、崩壊へと向う。子ども自身が、「自分は何をしたいのか」「何をすべきなのか」、それがわからなくなる。
【第三期・混乱】
アイデンティティが崩壊すると、精神状態は、きわめて不安定になる。ささいなことで、激怒したり、突発的に暴れたりする(プラス型)。
反対に落ち込んだり、家の奥にひきこもったりする(マイナス型)。外界との接触を断つことによって、不愉快な気分になるのを避けようとする。このとき、無気力になり、ボーッとした表情で、一日を過ごすようになることもある。
【第四期・非行】
アイデンティティが崩壊すると、子どもは、主につぎの5つのパターンの中から、自分の道を模索する。
(1)攻撃型
(2)同情型
(3)依存型
(4)服従型
(5)逃避型
このうち、攻撃型が、いわゆる非行ということになる。独特の目つきで、肩をいからせて歩く。独特の服装に、独特の暴言などなど。暴力行為、暴力事件に発展することも珍しくない。
このタイプの子どもに、「そんなことをすれば、君は、みなに、嫌われるんだよ」と説いても意味はない。このタイプの子どもは、非行を通して、(自分の顔)をつくろうとする。顔のない自分よりは、嫌われても、顔のある自分のほうが、よいというわけである。
アイデンティティそのものが、崩壊しているため、ふつうの、合理的な論理は通用しない。ささいなどうでもよいことに、異常なこだわりを見せたりする。あるいは、それにこだわる。自己管理能力も低下するため、自分をコントロールできなくなる。
以上が、非行のメカニズムということになる。
では、子どもを非行から守るためには、どうすればよいか。もうその答はおわかりかと思う。
つねに(子どものしたいこと)と、(子どもがしていること)を、一致させるようにする。あるいはその接点だけは、切らないようにする。
仮に受験勉強をさせるにしても、「成績がさがったから、サッカーはダメ」式の乱暴な、指導はしない。受験勉強をしながらも、サッカーはサッカーとして、別に楽しめるワクを用意する。
言うまでもなく、(自分のしたいこと)と、(していること)が一致している子どもは、精神的に、きわめて安定している。どっしりしている。方向性がしっかりしているから、夢や希望も、もちやすい。もちろん、目的もしっかりしている。
また方向性がしっかりしているから、誘惑にも強い。悪の世界からの誘惑があっても、それをはねかえすことができる。自己管理能力もしっかりいているから、してよいことと、悪いことの判断も的確にできる。
だから……。
今までにも何度も書いてきたが、子どもが、「パン屋さんになりたい」と言ったら、「そうね、すてきね」「こんど、いっしょにパンを焼いてみましょう」などと、答えてやる。そういう子どもの夢や希望には、ていねいに耳を傾けてやる。そういう思いやりが、結局は、自分の子どもを非行から守る最善の方法ということになる。
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●スチューデント・アパシー
無気力、無表情、無感動の状態を総称して、「アパシー」という。そのアパシーが、若者を中心に、部分的に現れることがある。とくに、男子学生に多い。それを、「スチューデント・アパシー」(ウォルターズ)という。
このスチューデント・アパシーが、燃えつき症候群や、荷おろし症候群とちがう点は、ここにも書いたように、学業なら学業だけというように、アパシーになる部分が、かぎられているという点。学業面では、無気力でも、アルバイトや、交友、遊びは、人一倍、活発にする。
が、大学の講義室に入ったとたん、別人のように、無気力状態になる。反応もなく、ただぼんやりとしているだけ。眠ってしまうこともある。
こうした症状も、(本人がやりたいこと)と、(現実にしていること)のギャップが、大きいことが原因でそうなると考えると、わかりやすい。「大学へは入ってみたが……」という状態である。とくに、目標もなく、ただ点数をあげるためだけの受験勉強をしてきたような子どもに、多く見られる。
このタイプの学生は、まず本人自身が、何をしたいかを正確に知らなければならない。しかしたいていのケースでは、それを知るという気力そのものすら、消えていることが多い。
「君は、本当は、何をしたいのか?」
「わからない」
「でも、君にも、何か、やりたいことがあるだろ?」
「ない……」
「でも、今のままでいいとは、君だって、思っていないだろ?」
「……」と。
こうした症状は、早い子どもで、小学校の高学年児でも、見られるようになる。概して、従順で、まじめな子どもほど、そうなりやすい。友だちと遊ぶときはそれなりに活発なのだが、教室へ入り、机に向かってすわったとたん、無気力になってしまう。
こうした症状が見られたら、できるだけ初期の段階で、それに気づき、子どもの心を取りもどす。よく誤解されるが、「いい高校に入りなさい」「いい大学に入りなさい」というのは、子どもにとっては、(したいこと)ではない。一見、子どものためを思った言葉に聞こえるかもしれないが、その実、子どもの心を破壊している。
だから今、目的の高校や大学へ入ったとたん、燃え尽きてしまったりして、無気力になる子どもは、本当に多い。市内の進学高校でも、5~10%が、そうでないかと言われている(教師談)。大学生となると、もっと多い。
(はやし浩司 アパシー スチューデントアパシー 無気力な子ども 自我の崩壊 同一性の危機 同一性の崩壊)
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少し前、こんな相談がありました。再掲載します。
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【E氏より】
甥(おい)っ子についてなんですが、小学二年生でサッカークラブに入っています。ところがこのところ、することがないと、ゴロゴロしているというのです。
とくに友だちと遊ぶでもなく、何か自分で遊ぶのでもなく……。サッカーもヤル気がないくせに、やめるでもない。こういう時は、どこに目を向ければいいのでしょうか。
やる気がないのは、今、彼の家庭が関心を持っている範疇にないというだけで、親自身が持っている壁を越えさせることがポイントかな、と思ったりしたのですが……。
【はやし浩司より】
●消去法で
こういう相談では、最悪のケースから、考えていきます。
バーントアウト(燃え尽き、俗にいう「あしたのジョー症候群」)、無気力症候群(やる気が起きない、ハキがない)、自我の崩壊(抵抗する力すらなくし、従順、服従的になる)など。さらに回避性障害(人との接触を避ける)、引きこもり、行為障害(買い物グセ、集団非行、非行)など。
自閉症はないか、自閉傾向はないか。さらには、何らかの精神障害の前兆や、学校恐怖症の初期症状、怠学、不登校の前兆症状はないか、など。
軽いケースでは、親の過干渉、溺愛、過関心、過保護などによって、似たような症状を見せることがあります。また学習の過負担、過剰期待による、オーバーヒートなどなど。この時期だと、暑さにまけた、クーラー病もあるかもしれません(青白い顔をして、ハーハーあえぐ、など)。
「無気力」といっても、症状や程度は、さまざまです。日常生活全体にわたってそうなのか。あるいは勉強面なら勉強面だけにそうなのか。あるいは日よって違うのか。また一日の中でも、変動はあるのかないのか。
こうした症状にあわせて、何か随伴症状があるかないかも、ポイントになります。ふつう心配なケースでは、神経症による緒症状(身体面、行動面、精神面の症状)が伴うはずです。たとえばチック、夜驚、爪かみ、夜尿など。腹痛や、慢性的な疲労感、頭痛もあります。行動面では、たとえば収集癖や万引きなど。
さらに情緒障害が進むと、心が緊張状態になり、突発的に怒ったり、キレたりしやすくなります。この年齢だと、ぐずったりすることもあるかもしれません。
こうした症状をみながら、順に、一つずつ、消去していきます。「これではない」「では、これではないか?」とです。
●教育と医療
つまりいただいた症状だけでは、私には、何とも判断しかねるということです。したがって、アドバイスは不可能です。仮に、そのお子さんを前に置いても、私のようなものが診断名をくだすのは、タブーです。資格のあるドクターもしくは、家の人が、ここに書いたことを参考に、自分で判断するしかありません。
治療を目的とする医療と、教育を目的とする教育とは、基本的な部分で、見方、考え方が違うということです。
たとえばこの時期、子どもは、中間反抗期に入ります。おとなになりたいという自分と、幼児期への復帰と、その間で、フラフラとゆれ戻しを繰りかえしながら、心の状態が、たいへん不安定になります。
「おとなに扱わないと怒る」、しかし「幼児のように、母親のおっぱいを求める」というようにです。
そういう心の変化も、加味して、子どもを判断しなければなりません。医療のように、検査だけをして……というわけにはいかないのですね。私たちの立場でいうなら、わかっていても、知らないフリをして指導します。
しかしそれでは、回答になりませんので、一応の答を書いておきます。
相談があるということから、かなり目立った症状があるという前提で、話をします。
もっとも多いケースは、親の過剰期待、それによるか負担、過関心によって、脳のある部分(辺縁系の帯状回)が、変調しているということ。多くの無気力症状は、こうして生まれると説明
されます。
特徴としては、やる気なさのほか、無気力、無関心、無感動、脱力感、無反応など。緩慢動作や、反応の遅延などもあります。こうした症状が慢性化すると、昼と夜の逆転現象や回避性障害(だれにも会いたがらない)などの症状がつづき、やがて依存うつ病へと進行していきます。(こわいですね! Eさんのお子さんのことではなく、甥のことということで、私も、少し気楽に書いています。)
ですから安易に考えないこと。
●二番底、三番底へ……
この種の問題は、扱い方をまちがえると、二番底、三番底へと落ちていきます。さらに最悪の状態になってしまうということです。たとえば今は、何とか、まだサッカーはしているようですが、そのサッカーもしなくなるということです。(親は、これ以上悪くならないと思いがちですが……。決して、そうではないということです。)
小学二年生という年齢は、好奇心も旺盛で、生活力、行動力があって、ふつうなのです。それが中年の仕事疲れの男のように、家でゴロゴロしているほうが、おかしいのです。どこかに心の変調があるとみてよいでしょう。
では、なおすために、どうしたらよいか?
まず、家庭が家庭として、機能しているかどうかを、診断します。
●家庭にあり方を疑う……
子どもにとって、やすらぎのある、つまり外の世界で疲れた心と体を休める場所として機能しているかどうかということです。簡単な見分け方としては、親のいる前で、どうどうと、ふてぶてしく、体を休めているかどうかということです。
親の姿を見たら、コソコソと隠れたり、好んで親のいないところで、体や心を休めるようであれば、機能していないとみます。ほかに深刻なケースとしては、帰宅拒否があります。反省すべきは、親のほうです。
つぎに、達成感を大切にします。「自身が持っている壁を越えさせることがポイント」というのは、とんでもない話で、そういうやり方をすると、かえってここでいう二番底、三番底へと、子どもを追いやってしまうから注意してください。
この種の問題は、(無理をする)→(ますます無気力になる)→(ますます無理をする)の悪循環に陥りやすいので、注意します。一度、悪循環に陥ると、あとは底なしの悪循環を繰りかえし、やがて行き着くところまで、行き着いてしまいます。
「壁を越えさせる」のは、風邪を引いて、熱を出している子どもに、水をかけるような行為と言ってもよいでしょう。仮に心の病にかかっているということであれば、症状は、この年齢でも、半年単位で推移します。今日、改めたから、明日から改善するなどということは、ありえません。
私なら、学校恐怖症による不登校の初期症状を疑いますが、それについても、私はその子どもを見ていませんので、何とも判断しかねます。
ただコツは、いつも最悪のケースを考えながら、「暖かい無視」を繰りかえすということです。子どものやりたいようにさせます。過関心であれば、親は、子育てそのものから離れます。
多少生活態度がだらしなくなっても、「うちの子は、外でがんばっているから……」と思いなおし、大目にみます。
ほかに退行(幼児がえり)などの症状があれば、スキンシップを濃厚にし、CA、MGの多い食生活にこころがけます。(下にお子さんがいらっしゃれば、嫉妬が原因で、かなり情緒が不安定になっていることも、考えられます。)
子どもの無気力の問題は、安易に考えてはいけません。今は、それ以上のことは言えません。どうか慎重に対処してください。親やまわりのものが、あれこれお膳立てしても、意味がないばかりか、たいていは、症状を悪化させてしまいます。そういう例は、本当に多いです。
またもう少し症状がわかれば、話してください。症状に応じて、対処方法も変わります。あまり深刻でなければ、そのまま様子を見てください。では、今日は、これで失礼します。
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