Education in Front-Line and Essays by Hiroshi Hayashi (はやし浩司)

(Mr.) Hiroshi Hayashi, a professional writer who has written more than 30 his own books on Education, Chinese Medical science and Religion in Japan. My web-site is: http://www2.wbs.ne.jp/~hhayashi/ Please don't hesitate to visit my web-site, which is always welcome!!

Tuesday, January 29, 2008

●コロラドの月

●コロラドの月(Moonlight On The Colorado)

 夜、犬が騒いだので、庭へ出てみた。美しい夜だった。つんと冷たい風。澄み切った星空。

 中学生のとき、コーラス部で、「コロラドの月」という歌を歌った。簡単な曲だった。しかしあのころの私は、まだ見ぬ外国に、限りないロマンをいだいていた。いや、まだ知らぬ恋に、限りないロマンをいだいていたと言うべきか。「♪……君よ、こよ、うるわしき……」と。

 そのせいか知らないが、昔、飛行機の上からはじめてコロラド川を見たときには、本当に感激した。「ああ、あのときの川だ」と。……そんなことはどうでもよいが、こういう静かな夜は、どういうわけか、「コロラドの月」が、自然と鼻歌となって出てくる。

 あのときの、あの仲間はどうしているかな……とふと、思う。先生は、どうしているかなと、ふと、思う。

 男子の部員は、四~五人しかいなかった。あとは全員、女子。その中に佐藤君という後輩がいた。歌手になった野口五郎という人の、兄だった。今はどこかで作曲の仕事をしているということだが、そのまま疎遠になってしまった。

 こういう夜は、無性に、人が恋しくなる。それは過ぎ去りし日々への郷愁か。それとも、人生の終盤にやってきた自分への悔恨か。若いころの思い出が、ツユと消えたように、私もまた、つぎの瞬間には、ツユと消えるのか。そんなはがゆさが、こうしてあのころの思い出を、輝かせる。

 そう、今、脳裏に飛来したのは、コンクールに行くときの私たちだ。みんなでゾロゾロと、どこかの会場に向かっている。並んでいるわけではないが、前のほうに、女子が、歩いている。コーラス部には、美しい人が集まっていた。Iさん、Tさん、Yさんなど。その女子たちが、明るく、声を張りあげて、何やらはしゃいでいる。初夏の陽光を、まばゆいばかりに浴びながら……。

 遠い昔のような気もするし、つい先日のことだったような気もする。時間でみれば、ちょうど四〇年も前のことだが、その実感が、まったくない。ただ私だけが、いつの間にか、歳をとったような感じがする。記憶はそのままなのに、肌からはハリが消え、シワもふえた。頭は、もう白髪だらけだ。そんな私が、気分だけは中学生のままで、コロラドの月を口ずさむ……。

♪コロラドの月(Moonlight On The Colorado)
キング作曲(近藤玲二訳詞)

コロラドの月の夜 一人ゆく岸辺に
思い出を運びくる はるかなる流れよ
若き日いまは去りて 君はいずこに
コロラドの月の夜 はかなく夢はかえる
 
コロラドの山の端に 涙ぐむ星かげ
今もなお忘れられぬ うるわしき瞳よ
夜空に君の幸を 遠く祈れば
コロラドの山の端に はかなく夢はかえる

 部屋にもどって、コタツのふとんを肩までかぶせた。体はシンまで冷えているはずなのに、どこか心の中だけは、ポカポカしている。私はさらにふとんを深く、顔までかぶせると、そのまま眠ってしまった。甘い夢に包まれて……。 
(02-12-23)

●少し前、アメリカに行ったとき、二男が、「パパ、コロラド州はいいところだよ。いっしょに来て住まないか」と言ってくれた。私がもう少し若くて、それにアメリカに人種偏見がなければ、そうしただろう。が、今の私には、もうその気力はない。今ある世界の中で、今ある自分を大切にして生きたい。「冒険」ということになれば、私は、若いころ、さんざんしてきた。思い残すことは、ほとんどない。