Education in Front-Line and Essays by Hiroshi Hayashi (はやし浩司)

(Mr.) Hiroshi Hayashi, a professional writer who has written more than 30 his own books on Education, Chinese Medical science and Religion in Japan. My web-site is: http://www2.wbs.ne.jp/~hhayashi/ Please don't hesitate to visit my web-site, which is always welcome!!

Friday, September 19, 2008

*A Scandal at a High School

【T林業高校での、成績改ざん事件】

『静岡県西部の県立高校で2006年、大学の推薦入試に有利になるよう生徒2人の調査書が改ざんされた問題で、T竜署と県警は22日、このうち1人の調査書改ざんに対する虚偽有印公文書作成・同行使の容疑で、元T林業高校長、北川Y容疑者(60)=浜松市浜北区内野台=を逮捕した』(中日新聞記事より)と。

これに対して、北川Y容疑者(法律の世界では、被疑者)は、「担任には(入学できるよう)頑張ろうとは言ったが、改ざんを指示されたと取られたら心外だ」などと否認しているという(同紙)。

もう少し、新聞記事の内容を詳しく読んでみよう。

『調べでは、北川容疑者は校長だった同年9月から同11月にかけて、同校で東京都内の大学を志望する3年生の調査書の評定を改ざんするよう担任らに指示。3・1だった評定を、推薦出願基準を満たす3・5にかさ上げさせた調査書を、大学に提出した疑い。

 県教委の調べでは、別の生徒1人の調査書改ざんも判明。2人とも推薦入試に合格し、入学している。

 県教委などに同校関係者とみられる匿名の通報があり発覚した。北川容疑者や教員らを名指しし、「地元有力者の身内である生徒の調査書が改ざんされている」といった内容。県教委は7月、同容疑で刑事告発していた。県警は改ざんの指示に対し、生徒側からの働き掛けや不正な金品の受け渡しがなかったか、北川容疑者を追及する。

 同日夜には北川容疑者の自宅と同校を家宅捜索。今後も含めて、周辺計9カ所を捜索するという。改ざんを指示されたとされる教諭4人についても任意で事情聴取を続け、裏付けを進める。

 遠藤K静岡県教育長の話 警察に委ねており、捜査の状況を見守りたい』(同紙)と。

この記事の中での最大のポイントは、(1)改ざんの発端となった、動機の内容である。
それについて、同じく中日新聞は、つぎのように書いている。

○少子化、過疎化の問題を抱える中山間地の専門高校のトップに就き、生徒募集を有利に進めるため学校の知名度アップにも熱心だった。

○森谷睦男・現校長は「改ざんは絶対に許されない」という認識を前提に「教諭4人は生徒に希望の学校にいってもらいたかったという気持ちが強かったと思う」と話した。

○同校の大学進学率は10%前後。「希望の大学に入ってくれれば、学校の知名度も上がる」と明かす。

○「指導熱心で前向きな先生」-。生徒2人の調査書の改ざんを教員に指示したとして逮捕された地元の伝統校、天竜林業高校の元校長北川容疑者。
 
○生徒数は減少傾向にあり、現在は400余人。「二俣高校と合併する話もでているほどで、学校は必死」と訴える。
 
さらに地元の「天竜・そま人の会」HPは、つぎのように北川容疑者を弁護する。

「この事件の要因として忘れてはいけないのは、林業全体が追いやられている危機的な状況。各自がそれぞれの分析と判断をしていただければと思います」(天竜・そま人の会・HP)と。

で、結果的に、北川容疑者は、地検浜松支部に起訴された。

『県立T林業高校での大学推薦入試調査書の改ざん事件で、地検浜松支部は11日、当時の校長で無職、北川Y容疑者(60)を虚偽有印公文書作成罪で地裁浜松支部に起訴した。

 起訴状などによると、北川被告は06年9月中旬ごろ、同校の教員らに指示して当時高校3年生だった生徒の評定平均を3・1から3・5に引き上げ、公印を押させて調査書を改ざんした。北川被告は虚偽有印公文書作成・同行使容疑で先月22日に逮捕されたが、地検浜松支部は「調査書の提出を最終的に決定するのは生徒側」とし、同作成罪でのみ起訴した。

 北川被告は「やっていない」と否認を続けており、供述調書への署名、押印も拒否しているという』(毎日新聞)と。

で、この事件の最大のポイントは、動機。

報道によると、調査票を改ざんしてもらい、東京の大学に進学できたのが、「地元の有力者」であったとうことから、有力者からの働きかけがあったかどうか。その際に、金銭の授受があったかどうかという点についても、捜査しているという。

毎日JPもつぎのように報道している。

『北川容疑者は、「働きかけをした覚えはない。そんな風にとらえられたのは心外だ」と容疑を否認しているが、県警では、生徒の親族である地元有力者から依頼や謝礼があったかについても追及する方針』(毎日JP)と。

もし(地元の有力者からの働きかけがあり)→(金銭的利益の授受があった)ということであれば、これは単純な贈収賄罪ということになる。
たまたま教育の場でなされたというだけで、事件の構図は、談合事件などと同じ、ただ単なる「汚職事件」ということになる。

「知名度をあげるためにした」「学校の存続をかけて必死だった」などという言葉は、ただの言い訳でしかない。

で、あくまでも金銭的利益の授受がなかったという前提で話をするなら、(仮にあったとしても、その双方が口を割ることはないだろうが)、今回の事件は、「生徒の将来を思わんばかりにした、教育熱心な教師による善意の事件」ということになる。
教師の立場で考えてみよう。

(1) 成績表の信頼性
(2) 点数主義の弊害
(3) 少子化による入試制度そのものの形骸化
(4) 大学教育の不備、欠陥があげられる。

順に考えてみる。


(1) 成績表の信頼性と(2)点数主義の弊害

成績表なるものが、いかにいいかげなもにであるかは、現場の教師なら、みな知っている。
それがわからなければ、男たちが働いている職場での勤務評定を見ればよい。
評価のし方としては、相対評価、絶対評価があり、さらに点数主義、人物主義がある。
人物主義にしても、最近では、人格の完成度(EQ論)を応用する学校もふえている。
「勉強しかできない」「勉強しかしない」「頭の中は偏差値でいっぱい」という学生を排除しようとする傾向も強くなってきている。
さらに高校からあがってくる調査票を無視して、大学独自で、独特の選抜方法をとる大学もふえてきている。

「AO方式」と呼ばれる入試選抜方法も、ふえている。

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●AO入試とは

 AO入試について、(Gakkou Net)のサイトには、つぎのようにある。

「大学の 入試形態の多様化は既に周知の事実ですが、その中でもここ数年、センター入試と並んで多くの大学で導入されているのが、AO入試(アドミッションズ・オフィス入試)です。

AO入試を初めて実施したのは慶応義塾大学の総合政策学部と環境情報学部で、1990年のことでした。99年度には13の私立大学が導入していただけのAO入試も、2001年度には、207大学と急増。その後もAO入試を実施する大学は、年々増加の一途をたどっています。

自己推薦制などに似た入試形態です。 学力では測れない個性豊かな人材を求めることを目的としていて、学力よりも目的意識や熱意・意欲を重視しています。

入試までの一般的な流れは、(1)エントリーシートで出願意志を表明し、(2)入試事務局とやりとりを行ってから正式に出願するといったもの。

選考方法は面談が最も多く、セミナー受講、レポート作成、研究発表といった個性豊かなものもあります。

出願・選抜方法、合格発表時期は大学によって様々で、夏休みのオープンキャンパスで事前面談を行ったり、講義に参加したりする場合もあります。「どうしてもこの大学で学びたい」受験生の熱意が届いて、従来の学力選抜では諦めなければならなかった大学に入学が許可されたり、能力や適性に合った大学が選べるなど、メリットはたくさんあります。

ただし、「学力を問わないから」という安易な理由でこの方式を選んでしまうと、大学の授業についていけなかったり、入学したものの学びたいことがなかったといったケースも考えられますから、将来まで見据えた計画を立てて入試に望むことが必要です。

AO入試は、もともとアメリカで生まれた入試方法で、本来は選考の権限を持つ「アドミッションズ・オフィス」という機関が行う、経費削減と効率性を目的とした入試といわれています。 AOとは(Admissions Office)の頭文字を取ったものです。

一方、日本では、実は現時点でAO入試の明確な定義がなく、各大学が独自のやり方で行っているというのが実情です。

しかし、学校長からの推薦を必要とせず、書類審査、面接、小論文などによって受験生の能力・適性、目的意識、入学後の学習に対する意欲などを判定する、学力試験にかたよらない新しい入試方法として、AO入試は注目すべき入試だということができるでしょう」(同サイトより)。

●推薦制度とのちがい 

 従来の推薦入試制度とのちがいについては、つぎのように説明している。

「(1)自己推薦制などに似た入試形態です。 学力では測れない個性豊かな人材を求めることを目的としていて、学力よりも目的意識や熱意・意欲を重視しています。

(2)高校の学校長の推薦が必要なく、大学が示す出願条件を満たせば、だれでも応募できる「自己推薦制・公募推薦制」色の強い入試。選考では面接や面談が重視され、時間や日数をかけてたっぷりと、しかも綿密に行われるものが多い。

(3)模擬授業グループ・ディスカッションといった独自の選抜が行われるなど、選抜方法に従来の推薦入試にはない創意工夫がなされている。

(4)受験生側だけでなく、大学側からの積極的な働きかけで行われている

(5)なお、コミュニケーション入試、自己アピール入試などという名称の入試を行っている大学がありますが、これらもAO入試の一種と考えていいでしょう」(同サイトより)。

●AO入試、3つのタイプ

大別して3つのタイプがあるとされる。選考は次のように行われているのが一般的のようである。

「(1)論文入試タイプ……早稲田大学、同志社大学など難関校に多いタイプ。長い論文を課したり、出願時に2000~3000字程度の志望理由書の提出を求めたりします。面接はそれをもとに行い、受験生の人間性から学力に至るまで、綿密に判定。結果的に、学力の成績がモノをいう選抜型の入試となっています。

(2)予備面接タイプ(対話型)……正式の出願前に1~2回の予備面接やインタビューを行うもので、日本型AO入試の主流になっています。 エントリー(AO入試への登録)や面談は大学主催の説明会などで行われるのが通常です。エントリーの際は、志望理由や自己アピールを大学指定の「エントリーシート」に記入して、提出することが多いようです。 このタイプの場合は、大学と受験生双方の合意が大事にされ、学力面より受験生の入学意志の確認が重視されます。

(3)自己推薦タイプ……なお、コミュニケーション入試、自己アピール入試などという名称の入試を行っている大学があるが、これらもAO入試の一種と考えていいでしょう」(同サイトより)。

 詳しくは、以下のサイトを参照のこと。
   http://www.gakkou.net/05word/daigaku/az_01.htm

 また文部科学省の統計によると、

 2003年度……337大学685学部
 2004年度……375大学802学部
 2005年度……401大学888学部が、このAO入試制度を活用しているという。

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 年々、AO入試方法を採用する大学が加速度的に増加していることからもわかるように、これからの入試方法は、全体としてAO入試方法に向かうものと予想される。

 知識よりも、思考力のある学生。
 ペーパーテストの成績よりも、人間性豊かな学生。
 目的意識をもった個性ある学生。

 AO入試には、そういった学生を選びたいという、大学側の意図が明確に現れている。ただ現在は、試行錯誤の段階であり、たとえばそれをそのまま中学入試や高校入試に応用することについては、問題点がないわけではない。
(はやし浩司 家庭教育 育児 育児評論 教育評論 幼児教育 子育て はやし浩司 AO入試 アドミッション・オフィス Admission Office 大学入試選抜)

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(3)少子化による入試制度そのものの形骸化

「大学へ入れてやりたい」と思う高校側。
しかし現実には、そこには「1人でも多くの学生を入れたい」という大学側の事情もある。

北川容疑者は、虚偽有印公文書作成・同行使容疑で起訴されたが、「だからそれがどうなの?」と、いちばん首をかしげているのが、ひょっとしたら、教育関係者自身ではないか。
私自身もそうである。

というのは、「教育」というのは、もっとファジー(あいまい)な部分で成り立っている。
自動車にたとえるなら、ハンドルの(遊び)のようなもの。
成績は、あくまでもその結果でしかないが、しかしたとえテストの点が悪くても、がんばったという姿勢が見られたら、成績表をあげる。
反対に、テストの点がよくても、態度が粗放で、その人間性に疑問をもてば、成績表をさげる。

こうした成績表の操作は、とくに小学校レベルでは、ひんぱんに行われている……というおわさは、よく耳にする。
そもそも成績表を正確につけるなどということは、不可能。
さらに科目別に正確につけるなどということは、さらにさらに不可能。
そんなことは、現場の教師なら、みな知っている。
たいての教師は、その子どもの顔や様子を思い浮かべながら、(もちろんテストの点数を参考にすることはあるが)、「適当に成績をつけている」(某小学校教師)。

むしろ以前のように、点数だけで人物を評価したり、進学先を決めることのほうが、異常なのである。
その異常さに、みなが、気がつき始めている。

そういう中で、今回の事件は起きた。

そこで最後に

(4)大学教育の不備、欠陥があげられる。

これは欧米の大学との比較だが、現在、EUを中心として、欧米では、単位の共通化がさらに進んでいる。

どこの大学へ入ろうとも、そこで取得した単位は、たとえばEU全体で共通化されている。
が、その分だけ、「入学するのは楽でも、単位を取得するのはむずかしい」という現実が生まれている。

日本のように「入学してしまえば、しめしめ」という現実そのものがない。

仮に成績をごまかして入学してきても、そのレベルに達しなければ、進級できないというしくみが、大学内部で確立すれば、こうした問題は、すべて解決する。
つまりは、大学教育の不備、欠陥ということになる。

高校側だけを責めるのは、酷というもの。

実際、東京大学で、入試選抜委員を務めたことがある、ある教授は、こう教えてくれた。

「インチキをしても、今ではすぐ、コンピュータに入力し、次回(翌年)からの入試データとして利用します」と。
「そういうデータを大学側は、しっかりもっていますよ」と。

つまり「あの高校の調査書はあてにならない」とわかれば、その翌年から、その高校の調査書は信用されなくなるということ。
そういう現実があることを、一般の人たちもよく知っておくべきである。

……ということで、私の結論。

「虚偽有印公文書作成・同行使容疑」ということだが、教育の世界では、見方によっては、成績表すべてが、「虚偽有印公文書」のようなもの。
どこかで歯止めをかけないと、メチャメチャになってしまうという点で、今回の告発は当然だとしても、O県で起きた、たとえば教員の不正採用事件とは、本質的に異質のものである。

もちろん、「地元有力者」と、北川容疑者との間で、金銭的な授受関係があったとしたら、話は別だが……。

(はやし浩司 家庭教育 育児 育児評論 教育評論 幼児教育 子育て はやし浩司 Hiroshi Hayashi education essayist writer Japanese essayist 天竜高校 成績表改ざん事件 成績表改竄)