*My Son's Factory
●長男の会社
+++++++++++++++++++
長男が勤めている会社は、部品の製造会社。
いくつかの工場に分かれているが、その中の
ひとつに、知的障害者の人たちが集まっている棟がある。
最近、長男は、そういう工場の指導もするようになった。
尊い職場である。
隣には、ブラジル人が働いている棟もある。
中国からの研修生も、その中にいる。
長男は仕事から帰ってくるたびに、「言葉がまるで通じない」とこぼす。
私が「いい機会だから、ポルトガル語を覚えたらいい」と言うと、
「うん」と。
20年後、あるいは30年後、日本とブラジルの立場は逆転している
かもしれない。
ブラジルという国は、そういう可能性を秘めた国である。
++++++++++++++++++
●長男の会社(2)
現在、長男が勤めている会社は、「汚い会社」と、長男はいう。
油だらけで、作業服も、数日ごとに洗濯している。
製造会社というのは、どこでもそういうもの。
しかし見た目に、だまされてはいけない。
とくに銀行に対して、恨みがあるわけではないが、ではあのピカピカの銀行が
すばらしい職場かというと、だれもそうは思わない。
このことは、退職したり、リストラされてみるとわかる。
私の年齢になって、振り返ってみると、わかる。
毎日、金、金、金……の仕事に、どういう意味があるというのか(失礼!)。
そういう仕事を、10年、20年とつづけて、どういう意味があるというのか(失礼!)。
私がオーストラリアへ行ったときのこと。
1970年のはじめだったが、銀行の仕事というのは、高卒の仕事と知って、驚いた。
反対にユンボやブルドーザーを現場で操作する仕事は、大卒の仕事と知って、驚いた。
仕事というのは、国によって、またその時代によって、価値観がちがう。
私「お前は、すばらしい仕事をしているんだよ」
長「わかっている」
私「知的障害の人たちは、孤独で、さみしがっている。そういう人たちに親切に
声をかけてあげるだけでも、お前は、すばらしいことをしていることになる」
長「わかっている」と。
少し前だったが、長男がこう言っていたのを思い出す。
「知的障害のある男性に親切にしてやったら、本当に喜んでくれた。あの人たちは、
ふつうの人たちより、何倍も、一生懸命に仕事をする」と。
私はそういう長男を誇らしく思う。
私「あのな、日本には、おかしな職業観があって、見た目でその仕事を判断する。
江戸時代の身分制度意識が、いまだに残っている。
しかし大切なのは、中身だよ。いつか今の仕事をお前が振り返るときがやってくる
と思う。今の仕事は、そのとき、何か暖かいものを残す仕事だよ」と。
現在、その会社は、浜松市の郊外に新工場を移転する予定だという。
長男は、その会社の責任者になってほしいと言われているという。
長男は長男で、やる気を出しているらしい。
そういう姿を見て、私とワイフは、ほっとしている。
<< Home